31 / 113
2018・新緑
30
しおりを挟む売り場フロアに上がってすぐ、新設されたばかりのカフェコーナーへ飛鳥は入った。
ここは入り口近くのメインレジのすぐ隣、出入りする客が必ず通過する最も人通りの多いスポットである。
カウンターで潤にコーヒーを注文させ、先に席を取り…立ち止まっている間だけ小さい振動を彼女の胎へ贈った。
「あれ清里所長、今日はお休みなんですね、お買い物ですか」
「アイカちゃん、お疲れさま。そう…!…ァ…ホット2つ…下さい…」
顔見知りのスタッフ・吹竹愛花と数回会話のラリーをして、潤はコーヒーを受け取り飛鳥が待つ席へ小股で歩み寄る。
「ほんと…やめて…先生…」
そう言われると逆のことをしてあげたくなる、飛鳥がスイッチを入れたら潤の肩が小刻みに震えだした。
「腰、振れてるよ」
「…れてなイッ…」
「自分の職場で辱められるの、どんな気持ち?」
「嫌、な気持ち…」
「あァそう、」
上辺を繕った潤に変化を加えると、手に持ったコーヒーに波紋が立った。
「ぎッ…ァ…何なのよォ…ア♡」
「飲み終わったら売り場回ろうか」
「やだ…もうやめてよ…帰ろう…」
「ボク、DVD-ROM買わなきゃ。付き合ってね」
飛鳥は、家を出る前に「歩行中はスイッチを入れない」と約束してくれた。
股に力を入れていないと抜け落ちてしまうし、ずっと作動していればそのうち体が慣れてしまうからだそうだ。
・
「あっちかなー」
飛鳥は潤の手を引きながら、売り場へ誘導する。
「え、PCの方じゃないの?」
よりによって店内奥の黒物売り場まで歩かされるようだ。
黒物売り場には、いつも性の指南をくれる唯がいる。
それは潤の胎に収まる玩具を勧めた張本人、勘付かれれば何をされるか分からない。
「(やだー……あ!)」
「ジュン!いらっしゃい、」
長身の潤は案の定数秒で唯に見つかってしまい、接客に付かれてしまった。
「買いもん?休みやのにわざわざ職場……!…彼氏?こんにちは」
「こんにちは、初めまして」
飛鳥はサングラスの下でにっこりと笑んで挨拶をする。
いつもパソコンスクールに居るのにやはり他部門の人間には人相が割れてないらしい。
飛鳥は白々しく初来店のふりをした。
「話はジュンから聞いてます、なんだか可愛がって貰ってるみたいで」
「はい、笠置さんの話もかねがね…色々アドバイスをして頂いてるみたいで…」
「………」
「………」
2人は潤を挟み、無言だが何やら情報のやり取りでもしているように見えた。
対抗か嫉妬か、可愛がっていたペットを盗られて寂しいような、それでも飼い主同士でその子の可愛さをシェアしたいような。
唯は改めて潤に用件を聞き、商品の選定に入る。
「録画用ですね、それならここ1列どれでも大丈夫、何枚入りにされます?うん、あれ、…ジュン…?」
よそ行きの接客モードに入っている唯が、潤の異変に気づく。
それもそのはず、潤はそわそわもじもじと膝を合わせ、いつものようなしゃんとした凛々しさがないのだ。
彼氏と一緒だからといって、ここまで恥じらうこともないだろう、それなら体調でも悪いのか。
唯が後方に立つ飛鳥に目を遣ると、彼はサングラスをずらしウインクをして、手の中のリモコンをそっと唯だけに見せた。
「………!……あァ…」
唯は片眉を下げニヤリと悪く笑い、既に商品が決まったというのに潤の腕に手を回して捕まえた。
「(なに、ユイ…)」
3人が立つ半径2メートルの空間には売場らしからぬピンクな雰囲気が漂う。
潤は飛鳥ばかりか、唯にまで嬲られようとしていた。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説



体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる