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先生、マグロは好きですか?2017

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 食は進むもまだ呑みも少ないうちに、場の話題はお決まりの恋バナになっていく。

 いつもはお互いの経験談や一般的な恋愛論、好みのタイプなどをゆるく話すのみなのだが、飛鳥の揺さぶりや夕方の唯との会話が脳裏をよぎり、酔った潤はついに性行為の話題に踏み込んだ。
 
「先生……私より詳しいと思うから聞くけどさ、」

 わった目で、

「ねぇ、マグロってどうやったら克服できるの?」

そう問えば、飛鳥は飲んでいたお茶を吹き出してむせる。

「かっ…ごふっ………はぁ?…………克服?」

「元カレに、別れ話の最後に言われたの、『つまんねぇマグロ女』って。つまんないでしょ?女がそうだと。誰で練習すればいいの?練習でどうにかなるものなの?」

「所長、マ、あの、その最中に大人しいって事ね?……好きな人とするのが一番の練習だよ。お酒弱いんだ、お水貰おうね。すみませーん、お冷を1つ」

「…好き…じゃなかったのかな…アイツのこと…」

潤はテーブルに頬杖をつき、顔を歪ませる。

 こんな時でも泣き黒子が色っぽいと飛鳥は感じていた。

「………もう、忘れなよ。半年過ぎてるじゃん、そんな酷い事言う奴、経歴から抹消だよ…ほら、お水飲んで…」

「…優しいねー、先生は…」

すぐに届いた水を少し口に含み、潤はブーツの爪先を飛鳥の足元にツンツンと当てて、頬杖をついたまま強い目力で睨み上げる。

「…先生、私、そろそろ克服したいの。先生の恋人候補に私は入れる?」

「ん?ケホ…入れる、けど」

「私の事抱ける?先生は、セックスは得意?」

 飛鳥がもう一度、ちびちび飲んでいたお茶を吹き出した。

 ただでさえ落ち着いた雰囲気の店内、彼は周囲を警戒する。

「ぶ……アー、気管に入りかけた……何回吹かせるんだよ…得、意な方かもしれないけど、相性ってものがあるから一概に」

「ちゃんとォ…好きになっだらァ、…私マグロじゃなぐなる…?」

「…!」

 強気な潤の目からほろほろと涙が溢れ、急なことに飛鳥は狼狽うろたえる。

 そうなれば彼女同様に切ない顔になってしまった。

「所長、泣き上戸じょうごだったの?ここまで荒れると思わなかったよ…どしたんだよ、もう…泣かないで…」

「じあわぜ、な、ごい、じだい…」

「うん、うん、幸せな恋ね、うん…わかるよ…」

飛鳥はおしぼりで頬の涙を吸わせるように拭いてやり、えぐえぐと鼻をすする潤に、迷いながらも大胆な提案をする。

「……練習…する?ボクで」

「…じあわぜに、なれる?」

「一時的に楽にしてあげることはできるよ。幸せになれるかは、所長次第…ボクは割と所長の事、本気で好きだから最初から誘うつもりだったんだけど…所長はどうなの?ボクの事、好き?」

「………うーん…」

「あぁー、酒の勢いかぁ…」

「だめ?」

「いや、だから、ボクは全然、所長の事好きだから抱ける…抱きたいけどさ」

「抱いて」

 酒の力だろうが据わった目を見て、飛鳥は覚悟を決めた。

「………は、」

 そして残ったお茶を一気に飲み干し、伝票を手に

「行こう、おいで」

と潤の手を引き、会計を済ませて店を出る。
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