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先生、マグロは好きですか?2017
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しおりを挟む19時前にタイムカードを切り、潤は一旦家に帰ることにした。
店から車で5分も走れば会社が用意した社宅替りのアパートへ着く。
単身者の転勤組は大体このアパートに入居しており、別棟には唯も住んでいた。
「………ブーツ、履きたいなぁ……」
ふと思い付き、ブーツに合わせたニットのワンピースを選ぶ。
厚手のタイツとコートで防寒はばっちりだ。
ブーツを手に運転用のぺたんこスニーカーを履いて家を出て、いつもの待ち合わせのコンビニへ車で向かう。
停めた車内でブーツへ履き替えた。
まだ少し時間がある、コンビニのカウンターでカフェオレを頼んでいると、後ろから
「ホットコーヒーも1つ」
と飛鳥の声がした。
「あ、お疲れ様」
「ふふ、お疲れ様。奢るよ、コレでお願いします」
飛鳥は潤の分も電子マネーでさくっと会計を済ませてくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして…所長スカートだ、珍しい」
「うん、ブーツ履きたくて」
「そっか、運転替わろうか?」
「スニーカー載せてるから大丈夫だよ、どうも、」
商品を受け取って少し口を付け二人は車へ戻るが、
「面倒でしょ、運転させてよ。カギ開けて」
と彼が重ねて言うので潤はハンドルを任せることにした。
「コート、今日は色までかぶっちゃったね」
「ほんと。双子コーデだ」
今夜の二人は、共にグレーのチェスターコートを羽織っている。
潤は黒のワンピース、飛鳥は黒のニットにジーンズのいつものスタイルだ。
「ブーツのためにワンピース着るとか、女子だなぁ」
「んー、たまにはね。長めのを買ったつもりだったんだけど、思ったより短かった」
「背が高いからね」
信号が青に替わると車を進め、飛鳥が苦笑する。
「ねぇ、先生、髪…切った?」
「うん、少しね。あと色も少し。退社してすぐサロンに行ったんだ。間に合って良かったよ。また明るい所で見て」
「いいね、カッコいい」
「……ありがと」
話しやすくて朗らかで、けれどほんのり色っぽい雰囲気が香る…潤は車内の空気をそのように感じた。
前回同様繁華街のコインパーキングへ駐車し、目的の飲食店を目指す。
「よし、行こうか」
「うん…」
相変わらず客引きが目立つので、飛鳥は色が濃く入ったサングラスを掛け周りを威嚇しながら潤の隣を歩いた。
そして今夜も彼女の肩に手を置き、離れないよう捕まえている。
「丈、ブーツに合ってるね。ほんとオシャレだなぁ」
「たまたまね…褒めても何も出ないよ?」
「女の子褒めるのに見返りなんて求めてないよ…まぁ、あれだね。所長の元カレの『連れて歩くとハクがつく』っていうのは、わかる気がするよ。『どうだ、いい女連れてるだろう』って、ボクが偉くなった気分になるもの」
「…何も出ないってば」
口説かれてる?そうでもない?褒められることには慣れている潤は彼の言葉を深読みしてしまう。
数分歩き、飛鳥チョイスの店に入る…さすが、なんだかお洒落なお店だった。
クラシカルだけどモダンで調度品にもこだわっている感じ、けれどスタッフはウェルカムな姿勢で出迎えてくれるので入りやすい。
薄暗い店内で、潤は改めて飛鳥の髪色を確認する。
透明感のある茶髪というのか、カーキにも見えた。
「わ、これ何色?キレイだね」
「なんとかアッシュ。思ったより染まらなかったけど。様子見だね」
「似合ってる…注文しよっか」
明日は休みなので、代行を使って帰るつもりで潤はアルコールを注文するも、珍しく飛鳥が酒を頼まない。
「所長の酔ってるところ見たいから。車はボクが運転して帰ってあげるよ」
そう言って不敵に笑う。
「んー…?」
潤はまだ素面の頭で事を整理する。
家まで送ってくれて、その後足のない彼はどうやって帰るのか、タクシー?それとも。
せめて、「家に行っていいか」と聞かれればそういうことだと断定できるのに。
これは駆け引き?誘われてる?自意識過剰?数点の疑問が残るが、どう転んでも良い、と潤は腹を括った。
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