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先生、マグロは好きですか?2017

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 店の奥の個室に通された潤は体が離れて少し楽になり、とりあえずの飲み物を頼んで、ようやく困ったことに気付いて固まった。

「ぁ」

 今更だが、飛鳥はマスクを外したくないのではないか。

 何らかの理由で素顔を隠すのだ、飲食に誘うのはタブーだったのでは…?

 そう考えて置物になった潤を見て、何かを悟った飛鳥が

「あぁ、ちゃんと見せてなかったね、ごめん」

そう言って、ゆっくりとマスクを外す。

「……」


 初めて見るアスカの素顔…潤が想像した通りの鼻立ちで全体的にハーフっぽく、唇は薄いが形が良くて色っぽい。

 顔は小さいが思ったより面長おもながで、しっかりと男性の顔をしていた。

「あ、先生、おキレイです…」

「ありがと」

世辞せじとは思えない言葉に、飛鳥はニッコリ返す。


 これは後々聞いた話だが古賀家のルーツは鹿児島辺りで、そこらの濃い顔を受け継いでいるそうだ。

「5代くらいさかのぼると、確かに外国の血は入ってるらしいんだよ。隔世遺伝かくせいいでんもあるのかもね」

とはその時の飛鳥の弁である。



 飲み物が届き、食事を数点頼んで、とりあえず二人は乾杯をした。

 思ったより飛鳥は酒の回りが速く、それにつれて饒舌じょうぜつになる。


「ジェンダーレスとか言われるけど、がっつり男だよ。確かに趣味とかは女性寄りだけどね」

「はぁ…マスクは?」

「これは、その…人け。顔目当てに寄ってくるのが一定数いてさ、苦手なんだ。ごめん、客商売なのに」

物を売るわけではないので一向に構わない、潤はふるふると首を横に振った。

「何も苦情とか無いから平気だよ。なるほど…イケメンにも苦労があるんだ…」

「あと、講師の他にも仕事してて、身元を隠すって言う意味もある」

「ダブルワークかぁ」

「ダブル、トリプル、まぁいろいろかな……所長、さっきデートでヒール履けないって言ってたけど、彼氏居るの?」 

不都合でもあったか、飛鳥は急に話題を変える。

「いやぁ…ふふ…ぜーんぜん。5ヶ月前、名古屋から転勤が決まった時に別れちゃって」

「あ、そう。それは転勤が理由?」 

「んー、転勤するって言ったら『じゃあ別れよ』って。つらつら、私の至らない点をもう山のように言われて……さすがに冷めちゃった」

「所長に至らないところがある?どんなこと?」
 
眉毛を怪訝けげんそうに動かし、飛鳥は深掘りしはじめた。

「仕事の帰りが遅いとか、家事が下手とか」

「あぁ、うーん…」

わからんでもない、仕事はともかく潤はしっかりしているようでどこか抜けている。

「………夜がつまんない、とか。…結婚も考えてる地元の本命と、そういうのがが上手い子と、私の3人で3股…もっと居たかもね、風俗も行ってたらしいし…全然気付かなかった。初めての彼氏だったんだけどね、2年無駄にしちゃった」

「はぁ、それは…所長、ぶっちゃけるね」

「あ、ごめん、先生…話しやすくて…忘れて?」

潤はけらけらと自虐的じぎゃくてきに笑った。

「…所長、ボクさぁ、」

 飛鳥は眉尻を下げカクテルを少し口に含み、

「他に仕事してるって言ったでしょ?1つはウェブデザイナーなんだけどさ、もう1つ。所長が嫌いそうな職種なんだよね」

とぶっちゃけ返しをお見舞いする。

「なに……?」

「性風俗産業。体を売ってるわけじゃないけど、技術を売ってる」

「んー、どういう…」

「ニューハーフのSMクラブとM性感。男の人を虐めたりするの。女装して仮面付けてね」

「…女王様みたいなこと?」

「まさに、そうだよ。マニアックな風俗。ふふ、やっぱり嫌い?」

例えるなら塩っぱい顔、潤は険しくも困惑した表情になってしまう。
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