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2019・梅雨
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しおりを挟む翌日。
潤を会社まで見送って、飛鳥はその足で市内の外れにある墓地を訪れる。
ここには彼がかつて愛した女性が祖先の骨と共に眠っていた。
「ショウコさん、ボク結婚したよ…だらしない結果になっちゃったけど…こうでもしないと結婚まで踏み切れなかったかも……頑張るよ……」
参拝する身寄りがいないから花も造花、飛鳥もできるだけ来ようとは思っているが自分はもはやその役目では無いのかもとも思っている。
「ふー…」
梅雨が終わってカラッと晴れた空、他に人は居ないがセミだけが喧しく夏を生き急ぐ。
体の相性が良くて気に入られた、夜職を生業としていた『ショウコさん』。
若い飛鳥が「好きだ」と連発しても、彼女は決して望むような応えを返してくれなかった。
いろんな事を教えてもらったし持てる限りの愛情を注いだつもりだったが彼女は飛鳥には靡かず、そればかりか彼女にとっては彼はヒモ、セフレに毛が生えた程度の扱いであった。
飛鳥は悔しいから自分も「遊び」だったと人には説明している。
あの当時の自分は本気で彼女を愛していた、結婚すると思っていた。
しかし彼女に本命の男ができるとあっさり追い出され、数年の睦じい生活は夢のように崩れてしまった。
「よくよく考えりゃ…ショウコさんとは結婚とか…無いわぁ…」
別れてしばらくしてから彼女が病気で亡くなったと風の噂に聞き、それ以来数年に渡りひっそりと墓参りをしている。
若気の至りで燃え上がったただのセフレ、今思えば愛情ではなく情欲だったかもしれない。
しかも相手からは愛されてもいなかった、だけど自分は本気だった…そんな自分が滑稽で情けなくて、軽々しく「運命」などとは言えなくなった。
「またね、ショウコさん。……来る頻度は減っちゃうかも。ぼちぼち…先に進まなきゃね」
この墓参りは未練ではなく忘れられていく彼女への同情によるもの、薄々そう感じていたがその考えがいよいよ確定的になっている。
「ショウコさんはボクじゃなくても良かったんだよね、でもジュンちゃんはボクじゃなきゃダメだから…大切にするよ」
誰よりも「運命の出会い」を美化していた自分を鼻で笑い、墓地を後にした。
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