上 下
97 / 113
2019・梅雨

95

しおりを挟む

 その後は飛鳥の立てた計画通りに事を進め、翌日は近くの産院を受診、心拍が確認できた。


 そして婚姻届も入手、その日休みで在宅していた同僚2人へ連絡を取ってファミレスにて証人欄へ署名捺印をしてもらう。

「おめでとう、ジュン……いや、急やな…感慨深いな」

「本当ね…体、辛かったでしょう…言ってくれれば良かったのに…」

 同僚の笠置かさぎ唯と刈田かりた美月みつき、彼女たちは二人が交際を始めた時から応援してきた。

 元カレの話も聞いた、唯に至っては売り場での戯れも目撃させられている。

「ジュン、幸せになりや、おい古賀こがセンセ、ジュンを泣かしたら承知せんぞ」

「分かってるって、笠置さん。ありがとうね、君たちはジュンちゃんの支えになってくれてたんだよね」

「妊娠したことまでは教えてくれへんかったけどな」

唯は飛鳥を睨み上げながら、案外秘密の多い潤へもチクリと針を刺す。

「不確定だったし…しょうがないじゃない…」

「言えよ、そんなんでよう仕事しとったな…しんどいやろ…」

「ごめん、次から言う」

 オレンジジュースをストローで掻き混ぜて、しょんぼりと吸い込む潤の肩を飛鳥が抱く。

「ごめんね、ボクが留守がちだったから話が進まなくてね、何かあれば…これまで通り助けてあげて欲しい。よろしくお願いします」

「いいのよ、先生。……ジュンちゃん、あの…食べ物とか気を付けてね?その…ジュンちゃんは家のことはからっきしじゃない…無理に家事して怪我したり小火ぼや起こしたりしちゃうと思うと気が気じゃないわ…」

「ふは、本当にね。ボク、家事は得意だから率先してやるよ。兼業主夫もいいよね、そうだ、ボクがジュンちゃんの苗字になるんだよ、だから職場では変わらず清里きよさと所長で呼んであげてね」

「あら、いいの?」

美月は割と驚いて、凹みっぱなしの潤を見遣った。

「うん…私はひとりっ子だから、清里姓を残そうって…昨日、親には取り急ぎ電話はしたの…父さん、喜んでた」

 潤は成人してから母を亡くしていて、故郷の北海道には父親だけがひとり暮らしをしている。

「そう…良かったわ」

「まだ働いてらっしゃるし、いずれ呼び寄せて一緒に暮らしてもいいし…早いうちに直接挨拶はしておきたいんだけど、なにぶん遠くてね」

「いいお婿さんね、ジュンちゃん♡」

「うん…もったいないよね、はは」


 見てもらいながら残りの欄を埋めて婚姻届を完成させ、潤と飛鳥はそれを提出するべく2人に見送られて役所へと発った。


 不備は無しで無事に受理…こうして6月某日に清里飛鳥・潤夫妻がひっそりと誕生、その足で母子手帳の交付も受け…飛鳥は最終の新幹線でまた大阪へ戻って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

処理中です...