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2019・薫風
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しおりを挟む翌週。
「ありがとうございました、」
無事に引っ越し作業も終わり、潤はとりあえずの荷物を開封して自室を整えた。
元々転勤を覚悟しているので荷物は少なめ、捨てられるものはほとんど処分してきたしベッドも棚も簡素な物、飾りっ気の無い部屋である。
「女らしくないかな…花でも飾ろうかな…?」
飛鳥が奮発したこのマンションは3LDK、月額家賃相当の半額を彼に支払うことで折半とする予定である。
しかして家事はほぼ飛鳥、家の権利も飛鳥、完全に居候状態の潤はもう少し多めにお金を出すことを提案したのだが一蹴されてしまった。
「お掃除ロボットと…あと…あ、超風が出るドライヤーとか、」
せめて手間くらいはと、潤は時短や便利家電をプレゼントすることで彼の負担を減らしてあげようと考えている。
お互い部屋はあってベッドも別々、飛鳥にしては意外な提案だったが生活リズムがバラバラだとこの方が都合が良いらしい。
「…ベッド、新調しようかな…ダブルだと一緒に寝ようって誘ってるみたいだから…セミダブルくらいので…うん、」
潤は職場の近くにある家具屋へ向かうことにした。
・
「お洒落だなぁ…」
ショールーム形式で様々な部屋のコーディネートが並ぶ店舗内をぐるりと巡り、ほうほうと潤は雑貨の置き方などを参考に覚えて帰ろうとする。
実際にマットレスに寝てみて感触を確かめ、在庫カードを抜いて会計に進もうとしたその時、
「あれ、清里所長?久しぶり、和田やー、元気か?」
と知った顔から声を掛けられた。
「あら、」
男はかつて隣県の店舗で法人事業部の所長をしていた和田、潤より年齢も社歴も6年上の先輩である。
彼女が前の店舗にいる時も全国Web会議で見たことがあったし、年配者ばかりの所長陣の中で一際若くハンサムな彼は印象深かった。
彼は現在は北店にフロア長として勤務しており、潤が所長になった際にはエリア長に代わり経験者として数日業務フローなどの研修を付けてもらったこともある。
「あ、和田フロア長…お疲れ様です、久しぶりですね!」
「ほんまにな、どう、立派にしてるか?」
167センチの潤が見上げる和田は身長180センチ、厳つい眉毛と褐色の肌、ハキハキと明るくエネルギッシュな男である。
「ぼちぼち…ですかね…仕事ですか?」
「うん、ほんまは休みやねんけど、クレーム処理で出撃よ。しやからスーツ。皿が割れたからついでに買いに来てんけど…所長は?」
「はい…あの、ベッド…その、引越ししまして…」
「へぇ、そりゃそりゃ…あ、もしかして結婚とか?」
職場ならセクハラに抵るがここではノーカウント、潤は照れながらコクコクと頷いて同意を示した。
「まぁ…同棲ですけど…はは」
「ええやんか…しっかり選びや、めでたい話になったら是非教えてや、あーせや、今度ムラタの新規事業入るやんか、会議見た?」
「あ、参加しましたよ」
「大型店の管理職しかWeb会議呼ばれてへんねんけど、後学の為に詳し知りたいから概要だけでも教えてくれんか?」
「大丈夫ですよ、お会計してきます…隣の…そこのカフェにしましょう、」
カウンターへ在庫カードを出して配送日を決め、潤は和田が待つ隣の本屋の一階のカフェへと向かう。
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