先生、マグロは好きですか?

茜琉ぴーたん

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2019・新春

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「こんばんはぁ…」

「いらっしゃい、上がって」

「うん…わ、散らかってる…珍しい」

 シンク横の調理台には開封した栄養ドリンクの瓶が数本並び、脱いだ服がソファーの背に数枚、床にはタオルや靴下が落ちていた。

 普段が綺麗すぎるのでこの程度の汚し方でも飛鳥の忙しさが見て取れるようである。

「ごめんね、これでも片付けたんだけど…ご飯食べるよね?出していい?」

「あの、アスカ、昼間の件を先に聞きたいんだけど…」

「あぁ、そうだね、用意しながら話すからこっちおいでよ」

彼曰く「簡単手抜き料理」のビーフストロガノフをお玉でくるくる混ぜながら、潤はレタスを千切る彼の横顔を見つめた。


「今日はね、買い物ついでに何か証拠でも取れればなーって思ってカウンターに行ったんだよ。ジュンちゃんの顔も見たかったし」

「はぁ」

「待たせてもらうつもりだったんだけど勝手にあの子が座ってね。ちょっと世間話したよ…向こうはボクが本部と繋がってるとは思ってないだろうし、ボロ出すかと思ってね、」

 自分がWeb会議をしてる間にそんなことが…睦まじくキャッキャと話す2人の姿が想像できて潤は面白くない。

「えーー…」

「怒らないでね、彼女…嬉々としていかに小柄が優れてるか・大柄が劣ってるかをプレゼンするんだよ」

「はぁ、」

まさかそれに同調したの?あまりの惨めさに潤は俯いた。

「一般的なというよりは、ジュンちゃんを例に挙げてる感じがしたから…さすがのボクもカチンときちゃって…ちょっと応戦した」

「え、な、なにしたの、」

「ボクの彼女も背が高いんだけどね、って惚気のろけ話をしてあげたよ。あの子を否定するわけじゃないけど、やっぱり腹が立つし…間接的にジュンちゃんを褒めたからあからさまに不機嫌になってたけど…何もされなかった?」

「うん…」

どんなことを褒めてくれたの?後で教えてくれる?潤は唇を噛み込んで喜びを押し殺す。

「そう、良かった…あとやんわり、警告だけしておいたよ。『以前こんな事があって、こういう場合はクビになるよ』とか『最悪、ムラタ相手に訴訟になるよ』って。世間話風に…あの子がしてそうなケースで起こりうる罰則とか賠償金とか…半分は出まかせだけどね。でもキョトンとして動じなかった。あれはシロか、よっぽど図太いかだよ」

「でも私、明らかに…その、ゴム…見たのに…」

「箱でしょ?本体があったとしても本番…つまり挿入まではシてないっていう可能性もある」

「え…」

「んー…感染症予防…って言ったらいいのかな。ボクもクラブにいる時シてたんだけど、ゴムの上から触ったり、あとボクはシてないけどフェラしたりするんだよ。苦そうだよね…」

飛鳥はそう言って、べぇと舌を出して苦笑する。

「へ、ぇ、」

「エッチしてないとしてもアウトなんだけどね。まぁ証拠がない。だからゴメン、根本の解決にはならなかった…問い詰めて悲鳴でも上げられたらボクが冤罪でお縄だし。そこらへんの目論見が甘かったかな…それこそでっち上げられたら、人目があったとはいえ、何もしてない証拠なんて出せないからね」

さっと手を拭いて戸棚から皿を出し、飛鳥は盛り付けを始めた。

 ビーフストロガノフとサラダ、主食はうっすら焼き色のついたバゲットが用意されている。

「いいよ、うん……ありがとう」

「何も収穫なし、無駄足だったよ…ごめんね、びっくりしたよね?カウンターのオジサマにも勘違いさせちゃったよね」

「ん…まぁ…訂正しておくよ」

「よし、食べよ、座って。ジュンちゃんが手伝ってくれたから美味しいはずだよ」

「お鍋混ぜただけじゃない…もぅ…」

食卓へ配膳したのも飛鳥、定位置で小さくなった潤は申し訳なさそうにまた唇を噛んだ。
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