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2018・落葉
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しおりを挟む朝から飛鳥は新聞とパソコンとスマートフォンを繰り返し確認したり開いては閉じて口数が少ない。
何か怒っているのか調子が悪いのか、昨夜は1週間ぶりの逢瀬だったというのに抱き合っているうちに寝落ちしてしまった。
潤はお泊まりをするからにはやはりセックスを期待してしまっていたので肩透かしを喰らい、しかし毎回シていた今までが異常だったのだと起きてから自身を納得させたばかりである。
時刻は午前10時を回って、望まれてないのかと潤が帰り支度をしようとした頃、
「いい天気だなー、ジュンちゃん、買い物とか予定ある?」
と飛鳥が掠れた声で尋ねた。
「…んー、特に無い…行楽日和って感じ?」
「紅葉…見に行ってみようか。うちの山」
「やま?」
そんな会話をした30分後、二人はとある民家の裏のなだらかな紅葉山を歩いていた。
「うわぁ…キレイ…これ…私有地?」
「うん、さっき車を停めた坂の隣が実家だよ」
「え、ご、ご両親とか…」
「留守だよ、安心して」
「ぶー」
てっきり挨拶でもさせてもらえるのかと思えば違った、なぜそうまでしてここの紅葉を見に来たのか…潤には分からない。
「会いたかった?緊張するでしょ」
「ご挨拶くらいしたかったよ…ぁっそ…」
「拗ねないで、ジュンちゃん…ほら、キレイ。静かで…隣近所と離れてて、子供の頃はもっと街に住みたいって思ってたけど、大人になると田舎もいいもんだよね」
紅葉観賞用なのか、背もたれ付きのベンチが置いてあったので二人はそこに腰掛けて、空の青と紅葉の赤のコントラストをため息がちに眺めた。
「そう、だねー、私の実家も田舎…しかも豪雪地帯。あったかい地方に住みたくて…名古屋が今のところ経験した最南端かな、まだまだ転勤あるかも…」
「それまでには結婚しようか」
「!」
朝から軽々しく結婚の話題を持ち出してはこちらの気持ちを試してずるい。
潤は動じないフリをしてチラと飛鳥の表情を盗み見るも、予想外に真剣な顔をしていたので驚いてしまう。
「なに?本気だよ」
「え、だって…」
「なんだかんだ理由付けてるけど、真面目にジュンちゃんのこと好きだし…大切に思ってるよ。別れるつもりで付き合ってるわけじゃないよ。いつ、かは断言できなくて申し訳ないんだけど…仕事とか落ち着いて…うん、あ、先に同棲してもいいね。正式に婚約……しない?」
染まる頬の赤色はここの紅葉といい勝負で、当然その赤みは種類が異なる物だが僅差で飛鳥の勝ちだと潤は確信した。
「う、ん…」
「よし、」
飛鳥は潤の両手を握って落ち葉の上へ片脚跪き、
「いつか、ボクと結婚してくれる?」
と上目遣いでお伺いを立てる。
「あ、はい…」
潤もなかなかに照れて応え、立ち上がった飛鳥に口付けをした。
「よーし、じゃあおいで」
「どこ、へ?」
飛鳥は彼女の手を引いて山を降り、日本家屋風の母屋へ入って行く。
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