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2018・爽秋
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しおりを挟むそれからしばらく経ったある日のこと。
法人カウンター直通の外線が鳴り潤が受話器を取ると、それは神戸の店舗の所長からのとある報せであった。
「え…はい、分かりました。お手数をおかけして申し訳ないです…はい…」
なにかあったのだ、パソコン教室の椅子から飛鳥も立ち上がって様子を窺う。
潤は口をへの字に曲げて目を閉じ、パチと開いたところで飛鳥と視線が合った。
「あ…、先生…ちょっと」
目線を彷徨かせてパソコン教室へ入り、潤は仕事の話をしてる風に腕組みをして立ったまま飛鳥と対面する。
「あの人、神戸の法人カウンターに来たらしい…『退職した』って言ってくれたらしいけど…本当に来た…はぁ…」
「やるね、ケンタ氏…そのまま帰ったのかな?いつの話?」
「今。土日休みの人だから、明日も粘るかもしれない…」
今日は土曜日、泊まりがけで愛知から来たのなら明日も可能性がある。
「メールチェックしてみなよ」
「あ、そうか…」
潤は震える手でスマートフォンを開き確認すると、「うへぇ」と小さく声を漏らした。
『退職したんだね、じゃあどこにいるの?明日もこっちに居るから、県央と県西部も回ってみるよ。何か手がかりがあるかもしれないしね!隠れんぼもほどほどにね!』
「ほぉ…痛々しい」
覗き見た飛鳥は眉頭を釣り上げて塩っぱい顔をして、潤の肩をポンと叩く。
「今夜はボクらもデートだし、仲の良いところ見せつけて追い払っちゃおうか。ねぇ、所長」
不穏な空気、しかし潤は誘いに若干の光を見て、
「うん、先生…」
と応えた。
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