42 / 113
2018・大暑
41
しおりを挟む数時間後。
浴衣に着替えて食堂に降り、バイキング会場をひと回りして…食べたい物の目星を付けた飛鳥は上手に盛って席へ着く。
そして大皿にサラダと麻婆豆腐を同居させて戻ってきた潤へ哀れみの目を向け、
「ボクが取ってあげるから一緒に回ろう」
と彼女に付きっきりで世話を焼いた。
「なんだかんだ、タフだよね、ジュンちゃんは」
「何が?」
「基礎体力があるのかな、あ、コレ食べる?うん、……ボクは最近座り仕事ばっかりで体力が落ちてるよ」
「ありゃ」
こんな時に気の利いたアドバイスでもできればカノジョっぽくて良いのだが、生憎潤の家庭科知識は遥か遠く記憶の海へどっぷり浸かってしまっている。
「あの…エネルギーよ。何がいいんだろ…ネバネバ系?夏はそういうのがいいって言うじゃない…」
「そうだねぇ、特設コーナーのうなぎ飯、後で貰いに行こうか。サラダコーナーのとろろかけて、精の付く飯♡」
「私、とろろ駄目なの。食感が気持ち悪くて…」
「そう?トマトも駄目だよね、新情報だね、覚えておくよ」
「……」
潤はなんだかしょんぼりとして盛ってもらった海鮮丼を口へ運ぶ。
マグロが多いのはご愛嬌、ちょっとした洒落のつもりだったが彼女は気にせずパクパクと食べ、ふと箸を持つ手を止めた。
「私も…料理の勉強しようかな…」
「ジュンちゃん、家事はできなくたって、生きていけるよ。元気に仕事ができたらいいじゃない」
無理をされて火事や爆発事故が起きては困る、飛鳥はなかなか本気で彼女の不器用さと我が身を心配しているのだ。
「でも…アスカは家事も仕事も出来るじゃない…私、消去法で役職付いただけで実力じゃないし…」
「卑屈にならないで。消去法でも、任せられるから指名されたんだよ。どうしたのさ、夕方はご機嫌だったのに」
飛鳥も潤が本店へ転勤してきた時から見ていたので昇進の経緯は知っていた。
選ばれ方は不本意だっただろうが、降ろされずに続けていられるというのは彼女の実績を評価されてのことなのだから自信を持って欲しいと励ます。
「私はアスカに色々してもらってるけど、お返しできることが無いんだもん…申し訳ないな、って」
「そうかな……ふふ、夜は役に立ってると思うけど?」
潤が俯いていた顔を上げれば飛鳥は涙袋をぷっくりと膨らせて微笑み、どこかいやらしくサディスティックであった。
「むー…いやまぁ…役に立てるならそれでもいいかぁ…」
「冗談だよ、ジュンちゃんを抱くのは日々の生活の潤い。そっち癒される目的ならマッサージでも行ったほうが為になるよ」
「うるおい…」
「そう、趣味。趣味で特技で…嗜好…レジャー…とか、かなー…贅沢な日課でもあるか、楽しいよ。ジュンちゃん鳴かせるの、超楽しい」
場にそぐわない話題は延々と、二人が満腹になるまで繰り返される。
「はい、アスカくんのスペシャルデザートだよ」
「うわぁ、映え♡」
デザートも飛鳥は綺麗にワンプレートにまとめてくれて、それを美味しそうに頬張る潤の笑顔はアスカの何よりのエネルギー源になるのであった。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説


体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる