先生、マグロは好きですか？

先生、マグロは好きですか？2017

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「…理解が及ばない…そんな世界があるんだ…どんな事してるの？」

「あれ、意外。引かれちゃうと思ったよ。…M男くんを叩いたり拘束したり…手袋してね、お客もちゃんとゴム着けて…知り合いのツテで始めたんだけど、お給料いいから辞められないんだよねぇ、ふふっ」

「……女装するの？…危ない目に遭ったりしない？」

「基本、M男が虐められに来る所だからね、大丈夫だよ」

痴情のもつれによる刃傷沙汰もたまにはあるが、関係無さそうだし心配させまいと飛鳥は敢えて伏せた。

「女の格好した男に虐められたい人がいるんだ。なんかよく分かんないなぁ…」

「奥さんや彼女がいる人でもね、来たりするんだよ。性的な満足感を得たくてね。お金が発生してると浮気にならないって考えの人もいるし…しかも相手がニューハーフ、つまり男ならセーフでしょ、ってね。ボクもおんなじ。男性を相手にするんならギリOKでしょって気がしてる」

「ほえぇ…色んな人がいるんだ…」

性の捉え方は人それぞれ、しかしやはり自分以外の人との性行為は「浮気」に当たると潤の考えは変わりそうにない。

「でしょ？人それぞれなんだよ。いや、励ますなんて偉そうな事言うつもりじゃなくてね、その…恋愛のパートナーとね、性のパートナーを分ける人も一定数居るんだよ、所長の元カレみたいにね。所長には、所長に合った人が居るよ、って…ごめん、気持ち悪いよね」

「ううん、先に下の話題出しちゃったのはこっちだから。血まで見せちゃって…なんだろ、教えてくれて嬉しい」

「良かったー、ボクも、堅気かたぎの人にカミングアウトしたこと無いから。この話題で嫌われたら、フェードアウトしようと思ってたよ…長く仲良くしていきたいと思ったから、早めに話しちゃった」

飛鳥はホッとした様子でグラスのカクテルを飲み干し、潤はぼちぼちかなと時計を確認する。

「そっかぁ、また私が酔った時に色々教えてね。……あ、先生は？恋人は？」

「今は居ないよ…恋したいねー、」

「いつかねー、ふふ♡」


　２時間ほど楽しい時間を過ごし、潤が奢ると言ったのだがせめて酒代は、と飛鳥もお金を出してくれた。


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「なんか、もっと早く先生と仲良くなっておけば良かったなぁ。話上手だし、楽しい」

　コインパーキングへ、来た道を打ち解けた二人は歩く。

「わー、嬉しい。ボクは、早くから声かけようと思ってたけどね」

「えー？言ってくれればいいのに」

「不純な意味でだけど」

　飛鳥が横目で潤を見下ろすと、

「ん？私に？」

彼女は思わず彼の顔へ目をやる。

「うん、所長、ビジュアルが超タイプ。話しててもいい子だし。また、恋愛したい時期が来たら、ボクも候補に入れてね」

優しく笑い、ふわふわと顔の横に垂らした後れ毛の向こうにピアスが光るのが見えた。

「……うん、」

「まだボクの事、オネエだと思ってる？さ、頑張って歩こう」

「………」


　恩人は女装の女王様、潤にとってはなかなか刺激的な夜だった。