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先生、マグロは好きですか?2017

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「着替え、持ってる?」

飛鳥は落ち着いた口調で尋ねる。

「い、いえ…」

「生理用品は?」

「あ、事務所の更衣室のロッカーに…」

「これじゃ戻れないね、買ってくるから待ってて?下着も。ナプキン?それとも挿れる方?」

「いえ、自分で!」

「そのお尻じゃ行けないよ。ストライプのところ、赤いの判るから…男でも買えるから、ね、どっち?」

「え、あ、ナプキン、です…」

「わかった。ここ、ボクが出たら鍵閉めてね」


 パタンと扉を閉めて潤が鍵を掛けると、はめ込みのりガラスに透ける飛鳥の影が遠くなっていく。

 生活雑貨コーナーで買ってきてくれるのだろう、男性にこんなことをさせて申し訳ない、色々なことを考えてしまう。

 そして飛鳥はやはり男性なのかと潤は今一度確認した。



「所長、いいかな?」

3分もしない間に飛鳥が戻ってきて、扉をノックする。

「はい、」


 解錠すると彼は素早く入って閉め、

「はい、これと、」

潤に紙袋ごと手渡し、自分のバッグからカーディガンと厚手のストールを取り出した。

「…所長、ボク外に出てるから、ズボン脱いで、これ巻いててくれる?シミ抜きしよう。スラックスはすぐ乾くから」

「……すみません。あ、お金…」

「今度でいいから。ん、じゃあまた、鍵してね」

「はい、」

飛鳥が退室すると潤は施錠し、スラックスを脱ぐ。

 まさか、昼間の店内の一角で脱衣なんて思ってもみないことだ。


「わ、はじめて」

 彼が買ってきてくれたナプキンはショーツ一体型の物だった。

 生活雑貨売り場とはいえ下着までは置いてはいないから、さすがの気回しだと感心する。


 潤は素早く履き替えて、履いていたショーツを丸めて空いたビニールに入れる。

「(気遣いが行き届いてるな…)」

 ストールは思ったより大きく材質と大きさから見るにおそらく膝掛けで、腰に巻いても透けないし、広げると足首までの巻きスカートになった。



「あの、着替えました」

 潤が鍵を開けると先ほどと同様のやり方で飛鳥が入室して施錠し、

「…良かった。よし、急いでシミ抜きしようね。このカーディガン羽織って?座ってね、冷やしちゃだめだよ。……大丈夫、ボク女家族が多くて、こういうの抵抗ないんだ」

そう言ってスラックスと、ショーツが入ったビニール袋に手をかけようとした。

「えっ、じ、自分でやりますから、」

「だめ、ボク、シミ抜き好きなんだ。いつも持ち歩いてるんだよ。上手だから、ね、任せて?」

「ぱ、ぱんつは持って帰りますから、」

「そう、ならそうして。ズボンの方はサクッとやっちゃうから。あ、座布団も」

「もうしわけございません…」

潤は深々と頭を下げて、パソコンチェアに腰を下ろす。


「大丈夫だってば。いま、オジサマが1人返ってるから、『所長は休憩中』って言っといたよ。カウンターも大丈夫だよ」

飛鳥はバッグからポーチを出して中身を広げると、染み抜きキットというのだろうか、液体と布切れ数枚が出てきた。

「……そう、ですか、あぁ、もう…嫌だな、こんな…」

 そしてデスクに肘をつき頭を抱えた潤へさりげなく足元ヒーターを向け、

「生理予定も把握できないくらい、忙しいんだね」

手際良くスラックスを裏返し広げて布を差し、液を振りかけて丸めた布でポンポンと叩いていく。

「はい…」

「無理しないで、少し寝たら?そうだ、薬は?」

「さっき、頭痛薬をここのお茶で飲みました。大丈夫です」

「そう、次は水かお湯でね…オジサマたちもみんな、所長のこと応援してるからね」

「はい…」


 その後も何かを話したが、潤は睡魔に襲われて覚えていなかった。
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