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「お父さんお母さん、僕は夏李さんのことが好きです。子供こそ作れませんが…幸せな家庭を僕たちは既に持っています。僕は元々が家事が得意で、器用ですから一通りのことはこなせちゃうんです。要領が良いんですよ。夏李さんは…ひとつのことに集中して、順番に片付けていく感じで。マルチタスクが得意な僕と比べると、スピードは遅くなっちゃうんです」

「そうね、夏李はそういうとこあるわ」

「でも僕はそういう、一生懸命な夏李さんが好きです。手は抜かないんですよ、丁寧にしてくれるんです。でも何か足りなかったり下手だったりするんです。肌着を干したら袖と裾がくちゃくちゃに丸まって固まって乾いちゃったり。文字通り、四角い所を丸く掃いたり」

「やりそうねぇ」


 オーバーキルだ、やめてくれ。

 情けない息子を両親はどう思ってるんだ。

 無能な子を金持ちに差し出す感覚になってるんじゃないのか、顔がじんじんと熱くなる。

 しかし真秋は手に力を入れてトントンとリズムを取って、

「頑張ってるのに不器用な夏李さんが、僕、好きなんですよねぇ」

とろける笑みを見せた。

「…アキ」

「ナツ、いい加減に自分からも言いな?このままじゃ、育てて下さったご両親に失礼だよ」

「お前がボロクソに言うからだろ…いや、その…父さん母さん、俺…自分のことは男だと思ってる。でも女性に惚れるとかそういう感じがずっと分かんなくて…男が好きっていうか、コイツが、アキが好きなんだ。は、初めて付き合ったのもアキだし、他には知らねぇんだ、他に…こんなに好きになれるほど、仲良くなれた奴いねぇから…」

 ポッポと頬が煮える。

 俺は曲がりなくゲイで、でも真秋しか知らない。

 それって男が好きっていうか「アキが好き」なんじゃないの、このニュアンスが親に伝われば嬉しい。


「血の繋がった孫は、見せてあげられないと思う。でもこれが俺の生き方だから…結婚とかは、申し訳ないけど期待しないで欲しい」

「うん、分かった…型にはまったことを言ってばかりで済まなかったな。深い意味は無かったんだ、世間話の定型文みたいなものだから」

父は柔らかい表情で、お茶を啜る。

 母は乙女みたいな顔になって、

「尊いわねぇ…」

と瞳を潤ませた。


 よく分からないが通じ合えたのか、その後は和やかにお茶をして食事をして、夕方まで会話は尽きなかった。
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