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しおりを挟む居間に通されるとそれぞれ席について、母がお茶を出してくれた。
前日からシミュレーションはしていたものの、いざとなると頭は真っ白だ。
真秋の良いところを熱弁するか、言い訳がましく趣向の説明をするか。
夏だというのに手先が震える、そこに
「ナツ、喋っても良いかな?」
と、真秋はそっと自身の手を重ねた。
「あ、うん…」
「夏李のお父さん、お母さん、はじめまして。僕、こういうものです」
アキは俺から手を離し、名刺を卓上に置いてまた手を戻す。
「建築士…さん、独立してらっしゃるのね」
「はい。自宅兼事務所で、夏李さんと暮らしています」
「あら、そうなの…お世話になっております」
「いえいえ」
まったくその通りなんだよな、察して頭を下げる母に己の不甲斐なさが申し訳なくなる。
父は「ふむ」といった表情で、真秋の語りを待っているようだった。
「僕は…数年前に夏李さんと呑み屋で出逢いまして、意気投合しまして。その頃は僕も社会人になったばかりで、経済的にも厳しかったものですから、夏李さんとルームシェアを始めたんです」
「そうなの」
「はい。友人として仲良くしていたんですが…僕は元々、男性を恋愛対象とする性分でして…平たく言うとゲイ、なんです」
「ほう」
「夏李さんとはそういうつもりで同居をした訳ではなかったんですが…共に暮らしていく中で、彼の良いところや魅力的な部分に男として惹かれてまして…交際をすることになったんです。それで、……、……、」
最初から俺を恋愛対象に見てたくせに、真秋は多少の嘘を織り交ぜて説明する。
父と母の相槌には言葉と目配せで応え、口ぶりは穏やかで説得力があった。
でも真秋は、俺の趣向に関しては語らない。
あくまで、真秋が俺に手を出したという体で話してくれている。
そこは俺自身で白状しろということか、キリキリと痛む胃にお茶を流した。
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