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8…まだ、

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 聞きかじった話だが世の中には色んな形の家族が居て、跡取りを作るために政略結婚をしたり仮面夫婦として表面上だけ仲良く振舞う人もいるらしい。

 それを思えばセックスの趣味が合わないというだけで他が合っているならマシなのかな。

 けれどすり寄せていけるなら合致した方がより良い夫婦生活を送れることだろう。

 しかも勇太は私に合わせて我慢をしてくれていたのだ。

 やはり私から彼の趣味に合わせるのが思いやりというものなのかもしれない。


「…千里ちさと?」

 キッチンへ戻って来た勇太ゆうたはシンク上の蛍光灯を見つめる私を不審に思い顔を覗き込む。

 そして私が

「勇太、勇太の趣味に合わせて抱いて」

なんて言うもんだから彼は目をまん丸にして驚いていた。

「はぁ、まだ言うてんの?」

「やっぱり、擦り合わせが必要だと思う。勇太は私に合わせてくれてた、私も…勇太に合わせたい、楽しんで…貰いたいの」

 目線を足元に落とせば勇太は腰を屈めて頬にキスをして、

「泣かれたら萎えてまうよ」

と子供をなだめるように頭をぽんぽんと叩く。

「っ…子作り、したら…もう機会が少なくなっちゃう…勇太の好きなように…してあげたい」

「別れるんとちゃうよ」

「だって、物足りなかったらまた風俗に行っちゃうんでしょう?繋ぎ止めておけないよ、」

「行かへんって」

 この辺りはもう不毛な水掛け論で、どれだけ勇太が操を立てると言っても私は信じられないし、満足させてあげられないことが申し訳なくて逆に行って解消して欲しいとさえ思ってしまう。

「勇太、前…私倒れてできなかったけど、海外の子にシたみたいに、抱いて?私にできないことをシたんでしょう?」

「だから…嫌がられたら困るし」

「我慢する、嫌でも…ていうか勇太なら…たぶん大丈夫」

「……離婚とか言わへん?」

「言わない、あ、でも痛いのと熱いのは嫌だ」

「せぇへんっちゅーの」

「あと汚いのも嫌」

「なんの知識入れてんの?」


 はぁ、と大きなため息をついた勇太はシンクの片付き具合を見て私の手を引き、

「ほんならおいで」

と寝室へいざなった。
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