9 / 11
9
しおりを挟む「あー、気付いた?せやねん、好きにしてええって父さんが言うからさ、堅苦しうない感じでそれにしてんけど……あ、そのメニューの写真も載ってるから…その写真で惹かれたわけか」
「たぶん…無意識にというか意識的になのか…目が止まっちゃったんですね……ははっ…運命的…すごい…」
ぷりっと丸く可愛い特徴的な字体、ツノが生えて目玉が描いてあったりと面白くうるさいそのフォントは我らがネヤガワラもコンビロゴに愛用しているフリーフォントだそうだ。
「サブリミナルすご……いや、ご縁やなぁ、」
「んー…不思議…このまま会えなかったら…私はもっと迷って泣いて暮らしてたとこですよ」
「ふむ…仕事が落ち着いたら『ぴくさ』にコメントでも入れたやろうけどね…いや、ごめん、軽んじてるとかやないよ、ほんまに…忙しかってん。あ、パスワードの再設定でもいけたんか……いやもう……改装とか仕入れとか…勉強することが多くてな。すまんやで…俺も…トンボちゃんと話するんは楽しかったしな。あんた、小説もおもろいよ」
推しと同じように「あんた」と私を呼ぶその口調は大阪弁とは少し訛りが異なって、しかし耳に心地よく優しく響く。
「あのー、今更ですけど…創作小説だから推しがご都合主義に動かされたりしてるんですけどその辺り…ご理解が…」
「あるから読んでんねん…創作やからね、BLは読まへんけど…知った人が登場人物ならそれだけで分かりやすいし…何べんも言うたけど、リアリティがあっておもろいよ、本人が喋っとるみたいなー……おっと…もうこんな時間か。引き留めてもうてごめんね」
「い、いえ、長々と居座ってしまってすみませんでした」
ダイレクトメールやコメントの応酬では伝えきれない想いを彼はたくさん話してくれて、夕方の営業が始まるというので私はぼちぼち退店することにした。
「うん……こういう話を…したかってんな、オフ会またしよな、」
「…はい…」
「近々、タブレット買う予定やから…店でも開けるし…したらもっと会話しやすいかもね、」
会計口にてランチ料金を支払い、彼は店の外まで見送りに出てくれる。
「それはいいですね」
「もう午後公演も終盤の時間やな…気を付けてな、ほな…またね、」
「あ、ルイスさん、あの、お名前…」
本当に今さら、でもここまで身元が割れたなら本名を是非に知っておきたかった。
「あー、すまんすまん…類、笠置類や」
「あ、私…中津川優美です、『類』さんだから『ルイス』なんですね」
「そう、もじっただけ。トンボちゃんは?なんで?」
「たまたまです、初期のアイコンの写真がたまたま撮った風景写真で…アキアカネって蜻蛉が写り込んでたので…『トンボ』って。創作もその名前で、」
「そうかぁ、…また来てね」
「はい、あの……ライブも…次があれば…ご一緒したいです」
「うん、行こう」
「では、失礼します」
挨拶して進んだものの店が遠くなるまで私は何度も振り返り、その度に彼は手を振ってくれて、二カァと笑ってくれていた。
駅へ向かう私の足取りは来た時とは対照的に軽くふわふわと舞うようで、自分を肯定し支持してもらえた喜びと復活した交流、そして奇跡の出逢いにとんでもなく精神が高揚する。
「憶えてること…メモしなきゃ…」
電車の中で私は朧げなライブの記憶から萌えポイントをサルベージし、スマートフォンのネタ帳へと書き出していった。
「これはいける…あ、あのウズさんの表情が良かったな…」
帰宅した私はすぐに執筆活動に入り、怒涛のタイプスピードで興奮を詰め込んだ2000字程の叙情的で臨場感に溢れる(当社比)作品を夜10時に『ぴくさ』へ投稿した。
『新作ええやん、会場の空気が手に取るようにわかるわ。二人の汗の描写のところ、俺好きやな。俺も行きたかったわー』
仕事が終わって読んでくれたのだろう、彼は一番にイイネを付けてくれ、SNSに喋り言葉で感想をくれた。
「ふふっ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる