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しおりを挟むメッセージアプリと違って既読かどうかも分からない。
藁にも縋る気持ちで返事を待つも、彼女も忙しいのか無視されているのか数日何の音沙汰もない。
「お願い…何か…やだよぅ、居なくなっちゃ嫌だ…」
彼女の存在が消えて10日ほどでメンタルは崩壊寸前、とち狂った私は彼女を見つけに行く事まで考えが及ぶ。
仲良くなって会話の中で偶然同じ府内に住んでいることは分かっているが、彼女の居住する市の人口は約18万人…まるで砂漠に落ちた一粒の宝石を探すような、途方も無い話である。
「街と…仕事、家族構成しか知らない……これだけじゃ分かんないって…」
普段の会話から得た個人情報はそのくらい、ただでさえ広い街の中で該当箇所が多すぎる。
「特定は無理か…そりゃそうだ…オフ会しときゃ良かったよ……あー…あー…」
心変わりか、不興を買ったか、まさか事故などで連絡がつかなくなっているのか、様々な可能性も浮上する。
ほとんどの人にとってSNSは日常生活のほんの一部だ。
辞めたくなればいつだって辞められるし、実際に気分次第でアカウントを消してサヨナラするフォロワーも何人も見てきた。
しかし私にとってSNSは、会ったこともないのにこんなことを言うのはおかしいかもしれないが…「好き」で繋がった絆は本当に強固で、ルイスさんへの信頼は、同志との友情は、何にも勝るものだったのだ。
しかしそう思っていたのは私だけだったのか。
もしかして解釈違いがあったのかも?
私の作風が好みでなくなったのに感想を書かねばならぬと彼女の負担になっていたのかも?
推しじゃなくなったのに言い出せずにそっとフェードアウトされたのかも?
私にサヨナラも言わずに消えたのはそういうこと?
考えは悪い方へと走る。
「ルイスさん…やだ…せっかく…仲良くなったのに…」
『♪』
そんなぼろぼろメンタルの私のスマートフォンに通知が入り慌てて確認すると、ネヤガワラの単独ライブが決定したという私設ファンクラブからのお知らせだった。
「わぁッ…♡やった、やったッ……!」
推しがワンランク上に上がったという喜び、しかし振り上げた腕は当然だが誰かとハイタッチするでもなくすごすごと下へ降ろされる。
「あ、あ、……あ、」
この喜びを一番に分かち合いたい。
彼女と繋がっているアカウントに切り替えるも、更新の止まった美女アイコンを見ては呆然とする。
伝えたい、一緒に行きたい、興奮を共有したい。
もはや承認欲求の魔人、自分ひとりでは情報を消化しきれない。
趣味アカウントに戻せばタイムラインは『ネヤガワラやったね!』『絶対行く!』とファンが個々に呟いており、私も便乗して『おめでとうございます』と呟いておいた。
「日程……あ、大阪か……2公演…」
行けば会えるかな、ならば行こう…私は翌日、会社に3週間先の有給申請書類を提出した。
大阪の街中のキャパシティ100人以下の小劇場、午前と午後の2公演。
チケット予約はしたがどちらの時間帯が当たるかは分からない。
「張るしかないな…プラカードでも作るか?捕まっちゃうかな…うーん…」
依然彼女のアカウントは稼働せず、ダイレクトメールにも応答がない。
私はパソコンで大きく「ルイスさん!トンボです!」と文字を打って印刷し、裏側からテープで貼り付けて大きな横断幕を拵えた。
「没収されちゃうかな…畳んで…うーん」
とりあえず小さく畳んで、部屋の隅へ準備しておく。
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