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元気に、切り替えて、清算します!
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しおりを挟む決行当日。
私は午前半休を取り、彼の出勤時を狙うことにした。
「この辺りにしましょうか」
「そうだね」
休み申請をしたところ部長は「何かあった?」と心配そうにしてくれたので、簡単に計画をお話しさせてもらった。
すると部長は「スリリングだねぇ」と何故か乗り気になり、同伴してくれることになった。
ちなみに部長はアラフォーのお茶目な独身男性である。
「じゃあ、絶対に喋っちゃダメですからね」
「分かってるよ」
部長は普段よりもビシッとスーツを着込んで、いつもはトートなのに堅めなビジネスバッグを選んで手に提げる。
その手首にはゴツめの高級時計がチラリ、少し机で打っただけで「ひゃー」と撫でるくらいに過保護に扱っている宝物らしい。
部長としては、自分が同伴することで物々しさを醸せたらとの狙いがあったようだ。
でももちろん威圧などしてはいけないし、脅したりもしてはいけない。
だから口酸っぱく「黙ってて下さい」と何度も念押しした。
「…あ、来ました、行きましょう」
「はーい」
「おはようございます」
元彼の姿が見えたので、社屋入り口の邪魔にならない位置で声を掛ける。
「おは…えっ、」
驚いた元彼は私を見て、そして後方に侍る部長に気付いて二度見していた。
「こちら、お別れ時にお伝えした件の請求書です。この度、やっと全てカタがつきましたので、お持ちしました。今、中身を確認して頂けますか?」
他人行儀に仰々しく、しかし丁寧に封筒を渡す。
怯えた元彼は周囲を気にしつつ便箋を開き、請求書の合計額を見て無表情になった。
「どうかされましたか?」
「え、いや…」
3桁万円くらいを想像していたのだろうか。
少し目が泳いでいるものの、口角が上向きになっている気がする。
払えなくもない、支払い後に困窮する程でもない絶妙な額だったのだろう。
でも、一括でこの額の買い物をするとなるとじっくり考えたくなる大金だ。
ましてや、支払って見返りがある訳でもないから気が乗らなくて当然だ。
賠償だし、表立って笑うことも出来ず戸惑っているのだろう。
「口座はそちらに書いてある通りです。では、期日までによろしくお願いします。もし支払いが不服でしたら仰って下さい。ご両親と職場の方にもご同席頂いて、広く意見を交わした後に然るべき対処を」
「分かった、分かったから…」
次々に出勤して来る同僚や上司からの目が気になるのだろう、元彼は便箋を封筒に押し込んで
「払うから、もう来ないでくれ」
と社屋へ走って行った。
「…大丈夫?」
「そうですね…呆気ないもんですね」
「じゃなくて、君が大丈夫かって聞いたんだよ」
「大丈夫ですよ?ギャフンと言わせて気分が良いです」
「…じゃ、ブランチでもする?せっかくの午前休だし」
「なら、お昼まで待ってランチしましょうよ」
その後、私と部長はお洒落なカフェで時間を潰してから会社のある駅まで戻った。
そして馴染みのある洋食屋に入ってランチを食べて鋭気を養い…午後からはバリバリ働いた。
その週の金曜日、口座に入金があったと銀行からのメール通知が入った。
これで全てが終わった、その旨を部長に伝えて家でひとり祝杯をあげた。
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