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 そんな経緯があっての、新生活のスタートだった。

「…もう、オモチャなんて使わないし」

「うん、そだね…っと、ここで良い?」

心平は明るい外観のホテルを指差して、悠里に微笑み掛ける。

 悠里はコクンと頷いたので、心平は手を取り中へと入った。


 部屋を選んで4階へ、ここは男女問わず使えると評判らしい。

 男同士でも、というところがポイントなのだ。

 中に入ればモダンな洋風の、落ち着いた雰囲気の部屋だった。


「緊張してる?」

ソワソワしている悠里へ、ネクタイを緩める心平が尋ねる。

「…してる。スーツの心平くん超カッコいいし、ラブホテルって初めてだし」

「ありがとう。明日は休みだし、ゆっくりしようね」

 これまで二人は、宿泊施設はあくまで観光目的のホテルしか使ったことがなかった。

 遠距離時代でも駅前のビジネスホテルのツインだったり、旅行先で温泉旅館に泊まったことしかない。

 通常は悠里の部屋だったので、あからさまに「これからセックスするぞ」という雰囲気の部屋に悠里は気圧けおされていた。

「(概要は知ってたけどさ…あれ、電マってやつだ、それは冷蔵庫…ってか、テレビの音うるさいな…)」

「悠里くん?」

「っあ、うん…」

「脱がせてあげる」


 悠里の仕事着は店名入りのポロシャツだ。

 それで表を歩けないので着替えているのだが、今日は緩いロングTシャツに細身のジーンズを着ていた。

「もっと、オシャレして来れば良かったよ」

シャツを持ち上げられて、悠里は悔しそうに呟く。

「そう?オシャレじゃん」

「違う、心平くんと並んで歩くのに、カチッとした服にすれば良かった」

「僕はオフィスワーカーだからスーツなだけで。悠里くんは仕事終わりは汗もかいてるだろうし、ラフなのが良いと思うけどな」


 心平はニカイドー本社の総務部に配属されている。

 夏にノーネクタイになることはあっても、基本はスーツで仕事をしている。

 そのスーツをハンガーに掛けてスラックスも脱ぎ落として、細い指が悠里の腰元に触れる。
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