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 引き際ではなく、ここが好機なのだ。

 心平がお茶を飲んでグラスをサイドテーブルに戻したところで、悠里は膝を揃えてしっかりと向き直った。

「心平くん、これまで…意地悪なことをしてごめん」

「え、あ、うん、良いよ」

「僕ね、…心平くんのこと、ずっと…好きだったんだ」

「えっ」

心平は当然、驚く。

 けれど哀しいかな、これもドッキリなのではないかと反応に困った。

 その喜びもしない表情を見て、悠里はキリキリと胸の痛みを覚える。

「小さい頃からだよ。でも学校も一緒になれないじゃん、3学年離れてるから…だから、ちょっとでも繋がりが欲しくて、家庭教師を頼んで…父さんに、頼んでもらったんだ」

「なるほど…いや、素人の僕にわざわざ頼むから不思議だとは思ったんだ。悠里くんはそもそも秀才だし」

「…ぶ、不器用で、アプローチの仕方が分からなくて…エッチな方向から気にしてもらえたら、好奇心で釣れるかもなんて…考えて…」


 本当は、狙って仕掛けた訳ではない。

 自分の好奇心の方が優っていたし、チャンスがあったからアクションを起こしたに過ぎない。

 あの日リスニング中に消しゴムを落としたのは意図的だったが、あんなにまんまと机の下に入ってくれるなんて思いもしていなかった。

 まだ未成年だから表立って関係を持つ訳にもいかなかったし、来年までにゆるゆると進展させるのがベターだと考えていた。

 小狡い悠里だが、まだ少年の純真さも持っている。

 しかしそれは若さゆえの浅はかさとして、心平に届いていた。

 純な心平も、今回のやり口には嫌悪感が大きく飲み込めなかった。

 そもそもが心平は自分が異性愛者だと自覚しているので、同性である男性器をどうこうという展開の拡がりに抵抗が大きくなっていた。

 服の上から感じた肉の温かみは許容できたが、人工物を口に挿れた時の冷たさに興奮とは裏腹にモヤモヤが募っていた。

 あれは許せてこれは許せない、自分でも考えたことの無いボーダーラインを超えてしまったのがそのモヤモヤの原因なのかもしれない。

 「押し付ける」「触る」は良くて「舐めさせる」はNG、結果的に舐めてしまったが苦痛を感じていたとすれば。

 悠里はその苦痛をスルーどころか発想もせず、当たり前に受け入れてもらえると思い込んでいた。

 拒めなかったのは心平の非であるが、そう仕向けた悠里は暴走が過ぎたのだ。
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