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おまけ・遠距離中の二人(88話)

玄関ファイト・1

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 悠里ゆうりがまだ、大学生だった頃。


 心平しんぺいは秋の連休を利用して、悠里の部屋へ泊まりに来ていた。

 悠里は仕事なのでいつものように留守番をして、スーパーに買い物に出て帰って来たところだった。


「(やっぱ、物価の差を感じるなぁー……お、悠里くんだ)」

 予定が変わったのか、事前に聞いていた時間よりも早く悠里がジムから出て来ていた。

 この店舗は裏口が作られてないため、従業員も表の扉から出入りする。

 そこを出たところをちょうど目撃、声を掛けようとしたが視界にスッと女性が入って来た。


 女性が悠里に話し掛けたために、心平は咄嗟にアパートの階段の陰に隠れる。

「……、……、」

「………、…、…、」

「(お客さんかな、可愛い子…)」

 若い女性はおそらく悠里と同い年くらいで、大学の同級生という線も考えられた。

 いずれにしてもえらく親しげな様子、心平は自分の知らないコミュニティの悠里に触れて勝手に疎外感を覚える。

「(こっちには悠里くんの生活があって、人間関係があって、当たり前だよ、当たり前なんだけど)」


 陰からピョコと頭を出して窺うも、まだ2人は立ち話を続けていた。

 ジムに関することなのか、学校に関することなのか、どちらでもなくナンパだったりして。

 悶々と嫌なことを考え出した心平の表情が曇っていく。

 遠目に見る2人は、普通のカップルとして成立していた。

 若い恋人同士、そう思い込んで不思議ないくらいに自然で美しい。


「(僕には浮気するなとか愚痴愚痴言うくせに)」

ジッと見ている心平の目が、睨みに変わる。

 どうにかしてやりたい、邪魔してやりたい。

 でも私用ではなく業務に関わることだったらどうしよう、同僚や別店舗のスタッフなのかもしれない。

 自分が飛び出て「うちの悠里に何か?」なんて言って顰蹙ひんしゅくを買えば、悠里の立場が危うくなってしまう。

 大学の友人ならば更にヤバい、自分の嫉妬が悠里の学生生活を脅かすなんてあってはならない。


 悶々と黒いことを考えては棄てて、そうしている間にも悠里と女性の会話は終わらない。

 心平は買い物袋を携え、静かに外階段を上がった。

 そして静かに玄関の鍵を開けて、抜き足差し足で中へと入る。
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