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しおりを挟む春になり、心平は大学4年生に進級した。
春休みから始めていた企業研究も大詰め、いよいよ就職活動を開始する。
悠里は上京し、ひとり暮らしを始めた。
父が郊外のアパートの1階にフィットネスジムを入れて、その上の階に悠里を住まわせている。
勉学の傍らジムで働き、仕事のことを学ばせているのだ。
電車で大学に通い、帰宅後はジムで働いて。
時には理不尽な客対応に疲れることもある、マシンの不具合に慌てることもある。
毎日クタクタになりつつも、悠里は初めての経験を楽しんでいる。
そんな新生活にも慣れてきたゴールデンウィーク、心平は悠里を訪ねて東京へ出た。
「悠里くん、久しぶり!」
「ほんと、久しぶりだね、心平くん…ちょっと痩せたんじゃない?」
「就活とか忙しくて。悠里くんは…仕上がって来てるね」
「うん、モテちゃうかも」
駅前で再会した二人は、キャッキャと近況を語り合う。
悠里はジムで仕事がてら鍛えて顔つきと精悍になっており、心平は疲れが顔に表れていた。
まめに連絡は取り合っているものの、これが二人の初デートである。
ここには二人を知っている者はおらず、気負いも無い。
「どうする?どこか入る?」
「カフェにしよっか、オススメあるから行こう」
「あ、」
悠里は心平の手を取り、ずんずん歩き出す。
当然心平は面食らって周りを気にするも、ここには二人を特異な目で見る人はいなかった。
「…東京ってさ、良くも悪くもサラッとしてて。色んな人がいてさ、男同士で手を繋いでても何も言われない」
「そう、かな?恥ずかしくない?」
「お上りさんしてる方が恥ずかしいよ、堂々と歩こ」
「…うん」
今日の待ち合わせは渋谷、店が多いためか若者がわんさかといる。
観光客や外国人や、仮装に近いファッションもざらに見えた。
「僕は、自分の趣向に負い目は無いよ。でも、過剰にアピールするのは違うかなって思ってる。人前でキスしたりね」
「あー、そうだね」
「男女のカップルでも、手を繋いで街を歩くのは普通でしょ?だから後ろめたくはないよ」
「うん、分かった」
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