彼女は銀狼ギャル、ときどきコアラ

７日目

73

「シューカ、ちょっとおいで」

「はい、」

昼前に車崎に声を掛けられた秋花は、作業場の奥から表の客用駐車場へと出る。

「コーキ、守谷もりやさんの娘さん、シューカや。シューカ、水本みずもと社長のお孫さんのコーキちゃん。学校休みやから帰省してんて、」

彼の向こうには話に聞いていた孫娘、「コーキ」が緊張気味に立っていた。

「こんにちは、あの…水本幸希こうきと言います、お父様が亡くなられた時にはご葬儀には参加できなかったんですけど、生前のお話とかは祖父からよく聞かせてもらいました。ミズモリ車装の…跡を継がせてもらいます、よろしくお願いします、」

　車崎はタイプじゃないと言ったが秋花にしてみればどう見ても正統派の美少女、黒髪ロングで大きな瞳をした小柄で童顔のカワイ子ちゃんである。

　これがタイプでないと言うなら可愛がられている自分はもしやキワモノの部類なのか？秋花はやはり彼の美意識と価値観を疑った。

「はぁ…どうも…シンタローさんがお世話になります、こちらこそよろしくお願いします」

　帽子を取って挨拶をすれば、幸希はその透き通った銀髪に目を奪われ見惚れる。

「コーキ、シューカは気合入った仕事できる整備士やから。シューカみたいに名物整備士になれるよう頑張れよ！」

「はい！頑張ります‼︎」

「あと、シューカもゆくゆくは俺と結婚してミズモリに引き入れたいと思うてる。そうできるまで、俺と社長の下で修行やぞ、」

「はい‼︎楽しみです‼︎」


　快活かいかつで可愛くて若くて即戦力…秋花が抱いていた嫉妬などは崩れ去り、羨望の境地にまで至ってしまった。

「ははは…明るい子やな…」

　そんな秋花の肩を抱き、車崎は

「そう言やコーキ、コイツ秋花な、俺とコーキが浮気せぇへんかって心配してんねん、昨日もえらい機嫌悪うてなぁ、可愛いやろ♡言うたってよ、彼氏いてるって」

と銀髪をねじねじと指先で弄いじる。

「あぁ⁉︎」

「秋花さん、ご心配には及びません。私も数年交際している男性がおります。車崎さんは上司として慕いますがそれ以上のことはありませんので！」

「はぁ、」

　そこまで断言されると逆に腹が立たんでもないが言質げんちが取れたから良しとしよう…秋花は帽子を被り直し、

「コーキちゃん、また…そっちにも遊びに行くわ。社長にも会いたいしな、シンタローさんは仕事できる人やから、糸目でガチャ歯で汗臭くて歯軋ぎしりうるさいけどカッコ良う見える時があるからな、気ぃつけてや。私のやから。…ほなね、」

と言い放って作業場へと戻った。

「はい‼︎胸に刻んでおきます‼︎」

「シューカ、言い過ぎと違うか」

　背中の向こうから聞こえた２人の声を噛み締めて、秋花は塗装塗料の配合作業を再開する。