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6日目(夜)
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しおりを挟む「なに笑てんねん!……阿呆、糸目!」
「糸目は関係あれへんがな。俺はモテへんって言うてるやん、んな心配すんのはおかしいよ」
「モテるとかやない!一緒におったら惚れてまうかも分からんやろ、シンタローさん仕事できんねんから!頼れるし逞しいし!」
「おおきに」
「お前の思う俺のチャームポイントはそこやねんな」、車崎は糸目でニンマリ笑んで温度差のある助手席を見つめた。
ぷりぷりと怒る彼女はもう狼ではなくワンコ、「何で私と遊んでくれないの」と悪戯を繰り返す子犬の様である。
「笑うなて、ええ気になんなよ、歯ぁガタガタのくせして!」
「しばくぞ」
「顔とかやないねん、……好きに…なってまうかもしれんやんか、その子が、」
「無いて、彼氏おるって言うてたよ」
「もうそんな恋バナまでして!分からへんやんかぁ、密かに想い寄せるかも分からへん、」
先のことを今心配したところでどうにもなるまい、やきもちは分かったがあまりの不毛さに車崎は若干イラッときて、
「ミズモリ再建、やめてほしいんか?」
と本気のトーンで秋花へ尋ねた。
「…!………ちゃう、ちゃうの、父さんの会社、復活さしてくれるんは嬉しいねん、しやけど私、私に、」
「うん、」
「ほんまは……私に、……い、一緒にやらへんかって、声掛けて欲しかってん、」
「うん、」
「苦労してもええ、事務かて勉強する、生活するだけ貰えれば給料だって期待せぇへん、一緒に、……一緒におりたいねん…シンタローさん、」
自分はこんなに弱い人間だっただろうか。
彼氏にヤキモチを焼いて人間関係を制限しようとして、自分も介入させろと迫ってその上…こんなに泣いて。
本音をこぼせば子供のように丸い涙粒がポロポロと、俯いた瞳から膝の上の拳へと落ちた。
「…シューカ、気持ちは分かる。でもすぐはお前を呼ばれへん」
「なんでぇ、」
「まだ、お前を養われへん。結婚もしたい、子供も欲しい。地盤ができてからや、それからお前にも声掛けよう思うてた」
「ぞんなんっ…すぐでええやんかぁ、」
明石の橋の下でキスをした時にも泣いてしまったがあれはだいぶん綺麗な涙だった。
今夜のそれは随分と濁って…鼻水も出て顔もぐしゃぐしゃになっている。
「そうはいかへん、仕事やから。先輩後輩のまま恋人関係まで持ち込んで、ぐだぐだにしたぁない。コーキの生活も保証したらなアカンし、責任があんねん。ちゃんと、形ができてから、お前を部下にしたい」
「ひぐ…いつよぉ、」
「分からへん…まず設備を整えて、工場はそのまま残してあるから綺麗にするやろ、安定した顧客ができて、うん…分からへん…」
何年とか何ヶ月とか、適当でもいいから言って欲しいのに…真面目に考えるその顔はもう経営者のそれで、そんな真面目な所も男のチャームポイントのひとつなのだから秋花は悔しかった。
「阿呆…真面目、フーゾク通い、」
「悪口が過ぎるぞ…風俗通いの何がアカンねん…もう行かへんし」
「…ホーケイ」
「ぁあ⁉︎剥けとるわボケぇ、見るか?あ?」
酷い罵倒に感じた車崎は脅しのつもりでベルトのバックルをカチャカチャと鳴らすも、
「見して」
とぐしゃぐしゃの秋花から思わぬ答えが返ってくるものだから手をパッと離して挙げ降伏のポーズを取る。
「え、」
「見して、シンタローさん」
「いや、ここでは」
「どこならええ?ホテル?そこ、入ってくれますか?」
道路沿いのここら一帯は工場が立ち並んでいて、そのビルの隙間からはオリエンタルな雰囲気のラブホテルの建物が怪しく光っていた。
「待って、話、」
「そこでもできます、入れへんの?コーキちゃんに悪い?」
「コーキは関係あれへん、待って、ゴム、」
「ほな、そこで」
秋花の指差した先にはスーパーに併設されたドラッグストア、店とホテルと彼女を順番に見回した車崎は、
「お前…策士やな…」
と糸目で睨んで財布を手に取る。
「行ってきてください、ホーケイのSサイズでしたっけ」
「剥けチンのLや!……お前…覚えてろよ、」
車崎は泣き腫らした秋花にボックスティッシュを押しつけて、車を降りて行った。
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