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4日目
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しおりを挟む「おし、渡るよー、わ、絶景やな」
「おー…」
拓ける視界に白い橋梁と高い塔、ケーブルの影が次々と顔の上を駆けていく。
「キレイやな、な、」
「はい……あっという間ですね」
「しやね、もう淡路島や」
「南インターまで走るから…もうちょいかかるよ」
「はいはい…」
「シューカ、楽しい?」
「楽しいですよ」
「ん、寄りたいところあったら言うてな、どこでも連れてったるから」
はにかむ横顔、重い目蓋、自分を大切にしてくれている車崎へ先輩以上の感情が秋花の中で大きくなる。
「あ、この曲」
「懐かしいな」
「まだ弾けます?」
「どやろ…」
元々がミズモリ車装を通じての知り合いで、父を慕ってくれていて、高校でも一緒になって…帰宅部で済まそうとしていた秋花を軽音楽部へ誘ってくれたのも車崎だった。
『シューカ、腕長いし指も長いし、弦楽器したら?ベースとかええやん』
それが彼の誘い文句で、その通り入部して秋花はメキメキと上達する。
交友関係も広がり充実した高校生活を送ることができ、その点でも車崎に感謝していた。
車内BGMが変わり、それが二人の高校時代に演奏した曲だったので秋花はそんなことも思い出したのだ。
「…シンタローさん、ギター下手やったもんな」
「やかましな…下手でも楽しく弾くのが部活動の醍醐味やろ」
「あはは、うん、まぁね、」
実際、誘っておいて車崎はギターの腕はそうでもなく、後から始めた秋花にすぐに追いつかれてしまった。
「お前は器用やから…ギターもベースも…」
「シンタローさんも器用でしょ、卒業ライブはギター光ってたもん」
「まぁな、」
進学せずに就職先は秋に決まっていた車崎はギターのカスタムに嵌り、電気系統の勉強も始めてその技術と知識は今の車のドレスアップにも上手く活用されている。
「シューカは?もう弾かへん?」
「実家に置いたまま…甥っ子がいつか始めたり…あ!シンタローさん、昨日仏壇拝みに来てくれたんでしょ?すんません、昨日の電話では忘れてて…ありがとうございます」
「拝みに、て…」
その言い回しに妙な可笑しみを感じ、車崎は苦笑した。
「いや、いっくんにもお土産くれたって…ありがとうございます」
「ええよ、あの子…可愛いな。お兄さんソックリで」
「ね、ほんまに…てこてこ歩くんが可愛うてもう…貢いでしまいそうになります」
自分の幼い頃の姿の面影もある甥っ子、やんちゃに動き回る短い手足もまた愛しくてしょうがない。
秋花もたまに実家を訪れては彼に幼児用菓子を贈っていた。
「ひゃはは、確かに。…あの眉毛は誰似や?親父さんか、」
「そうですね、私も眉毛は父さん似やからつり眉。他のパーツはまぁまぁ母さん寄りかな」
「うん、可愛い」
「話が繋がってへん」
「思いついたら言うのよ。シューカは可愛い」
「あほか」
窓際に頬杖をついて、秋花は景色を見るフリをして照れた顔を隠す。
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