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2日目
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しおりを挟む室外機や種々の配管を管理するためだけの屋上はコンクリート剥き出しの殺風景な所で、車崎は塔屋の裏の影へ入り座り込む。
何故だろうこの既視感…秋花はこの灰色の地面と囲いを見れば妙に体がぞわぞわと疼いて脳裏に今朝見た天井が浮かんだ。
「(夢、ここやった気がする…)」
「どした、シューカもおいで、」
「あ、……まだ暑いっすね…」
「うん、いただきます」
さっきの話は流された?関係はどうなる?この食事も交際活動の一環?秋花はチキンを頬張る車崎を窺いながら、自身が購入した弁当を開ける。
「シューカは何にしてん?」
「大盛りカルボナーラ…いや、お腹空いてて…」
しまった、「大盛り」などはまた女らしさに欠けるものを選んでしまったか、秋花はやる事なす事がやっちまってるとドツボにはまった。
「うん、ええやん。……今更お前が大盛り食うたところで引かへんよ?ひゃはは…なに、照れてんのか」
「照れ、ますよ…」
「そらぁ嬉しいね、うん……俺はね、デラックス海苔弁。コロッケが決め手やねー♪漬物はやる、ほい」
車崎は口をつける前の割り箸でトレイの隅の柴漬けを秋花のカルボナーラのど真ん中に落とす。
「ちょ、なんしてんすか、シンタローさん…………美味いけど…」
「な、美味い。んー…続きやけどな…お前、友達の延長でゆるく付き合えるかなーと思うてんけど。元々地元の馴染みやし後輩やし。想定よりも乙女やってんな、って意味で言うた」
「ゆるくって…」
「家族…みたいな、なんて言うの?『ご趣味は?』なんて探り合わんでもええような…ギクシャクせぇへん感じ?…でもお前ドキドキしてんねんな。俺の背中にも見惚れてんな?乙女やのぅ、シューカ♡」
「そら…ドキドキ…しますよ…」
秋花は目線を切ってスパゲティを啜った。
過去のことも分かり合った今までの雰囲気のまま恋人になれれば楽なのだが、意識してしまうとこのザマなわけで。
自分はなかなかにクールなキャラだと思っていたがそうでもないと分かりそれも恥ずかしい。
「あとなぁ、その…恋愛楽しいもええねんけど、結婚を前提にな、ちゃんと…将来を考えたいねん……よう考えてな。俺とおって楽しない?シューカ、」
「そら楽しい…です…昨日の夜かて、いや今朝か…シンタローさん夢に出てきたし…」
「ほー、嬉しい。どんな夢よ」
「憶えてへんくて…でも…目ぇ覚めたらドキドキしてん…」
「ひゃは、うん、それなら良かった。まぁ、仕事中の気持ちの切り替えはお前の問題やからどうにもならんぞ、どうしてもアカンかったら俺が転勤希望出すわ、な、俺はんなことで別れたないからな、」
海苔をつけた歯を見せて良い事を言った車崎は頼もしく、しかしやはり可笑しかった。
「海苔すごい付いてますよ」
「おぉ、ほんまか」
「ふふっ……いや、なにがそこまで…私に気ぃ持ってくれるんか…」
「言うてるやんか、可愛いて。昔から思うてたよ、大人になってべっぴんになった、」
そう言って車崎は、くしゃくしゃと秋花のシルバーの髪を崩す。
「もー…嫌や、もぅ…」
「可愛い…シューカ、今日の化粧も気合入ってんなぁ。目のとこ…キラッキラして…光が反射してキレイよ」
「よぉ見てますね…」
「見てるよ。口紅の色やって変えたら分かるもん。女の子は楽しいてええなぁ」
昼食を摂ったら車崎が買った小さなチョコレートをひとつずつ食べ、二人はふふふ、ひゃはは、と笑い合った。
・
秋花は午後からの仕事は持ち直してキビキビと動けていた。
車崎は彼女を遠目に「よしよし」と見守り、
「(フラれんで良かったぁ…)」
と胸を撫で下ろす。
そしてときたま秋花と目線が合えばニコリと、細い目をさらに細めて笑みを返した。
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