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1日目
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しおりを挟む1日目。
まぁまぁの仕事量の日曜日、この日の仕事は普段となんら変わりなく進んでいった。
顔を合わせれば挨拶をして、元々の呼び方で呼び合い、作業の合間にはなんてことない雑談を交わす。
「……(構えてたけど…仕事中はこんなもんか…)」
少しはラブな雰囲気を醸すかと思っていたし、最悪の場合周囲に言いふらされて冷やかされるくらいは覚悟していたのだ。
秋花がひとり昼休憩を過ごしていると、同期の整備士が声を掛ける。
「守谷、お前弁当ゴッツイなぁ…それ手作り?」
「え、昨日食べ残した中華。ほら、出てくるのが遅いところ」
「あー、『満福亭』な、あれか…山盛り出てくるもんな…にしても詰め込み過ぎじゃない?その…豪快だな」
「へへ、女らしない?でも美味いよ、」
これくらいは慣れているやりとり、仕事場に食品保存容器2つ分の昼飯は同期が暗に示唆する通り女らしさには程遠かっただろう。
「(……私でええんやろか…女らしいことなんかでけへんぞ…)」
カップルになったならば手を繋いだりキスをしたり、その先もいずれ行わねばならないだろうが、慣れ親しんだ車崎としっとりとした雰囲気になるのだろうか…秋花はぼんやりと想像する。
「(手を繋ぐのはまぁ…ええけど…シンタローさんとキス…?エッチとか…できんのか??)」
体つき、顔、腕、男らしさは感じるが恋愛対象の異性として捉えたことがないのでいまいちイメージが湧かない。
彼女の中では彼はいまだに高校の頃の、少し尖った少年のイメージのままなのだ。
・
「あ、(対応してはる…)」
食事を終えて作業場に戻ると、車崎はナビ取付の後説明を客へしているところだった。
作業がメインとはいえ説明などは自分たちで行うし、量販店の併設なのでそちらから設備等の取り付け依頼で客と直接話をしなければならない。
「(頑張ってはんなぁ…)」
車崎はニコニコと最新式のカーナビの基本的な扱い方を説明して、取扱説明書を返して…オーナーに付いて車の後方へ回る。
「(?…何してんねや…)」
2人ともしゃがんで見えなくなったので秋花も少し近付いてみると、車崎はその車の後方に付いているウイングを下から揃って見上げていた。
「あー、ほんまや、キレイっすね…」
「せやろ、やっぱ純正やんな」
「ええ、カーボンとかもええねんけど…あ、旦那さん…ヤンチャやな、走り屋のステッカーやん、昔のっすか?」
「せや、もう辞めたよ。さすがに」
「そら分かりますよ、タイヤがきちっとしてるもん、チャイルドシート載っけてるし。思い出取っとくんはええ事っすわ」
「兄ちゃんは車いじらへんの?」
「俺はドレスアップだけっすね、光るん好きなんすよ…」
何かと思えば作業にはもはや関係ない話、車好き故のアフタートークが盛り上がっていた。
忙しいのに…とは思うがこれも立派なセールストークの一環なのだ。
作業だけでなく自動車自体に愛を持って接してくれるスタッフは重宝されるものである。
秋花は女性客からの指名率ナンバーワンだが、車崎は男女問わず全体的な指名率ナンバーワンであった。
車を大切にしている人は信頼したスタッフにしか愛車を触らせたがらないが、車崎は洗車やオイル交換においても固定客を多く抱えている。
特にとある年配の、こだわりを持った高級外車のオーナーなどは彼以外のスタッフにキーを預ける事もしたがらないほどに彼を信頼しているのだ。
「(女性客もいてるけど…嫉妬なんかせぇへんし…考えたこともあれへんな…)」
仕事ぶりは二重丸…秋花は離れて部品の補充をしながら、客を見送る車崎の背中に視線をやった。
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