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6日目(夜)
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しおりを挟むそれから実家を後にした秋花は一度自宅へ戻り、支度をして会社近くのコンビニへ車を停めて、
『今夜、会えますか?食事がてら話があります』
と意味深なメッセージを車崎へ送信した。
終業予定時刻を少し過ぎてからメッセージに既読マークが付き、
『うん、場所言うてくれたら向かうよ』
と、秋花の文言から不穏な空気でも感じ取ったのか、こざっぱりとした返事だけが届く。
『10分後、会社の駐車場で合流しましょう』
『分かった』
やりとりが済むと秋花は車を回して会社の駐車場に着けた。
従業員駐車場には販売店側の社員の車がまばらにあるだけで、よく見知った整備方のスタッフの車はほとんど無くなっている。
立ち話をしたり誘い合って飲む事もあるが、男性ばかりだし基本的には終業後にはさっさと職場を去りたいというのが共通の認識なのである。
「おった、」
定位置に車を停めて車崎の愛車へ近寄れば、運転席の彼は少々強張った表情をしていた。
「お疲れ様です、誘っておいてなんですけど、何食べるか決めてないんです」
「ええよ、シューカの好きなもんで…先に話でもええけど、」
「気になります?」
行き先を言わないので車も出せない、エンジンをかけた車はギラギラと内側から光り、助手席の秋花のスニーカーは彼の宣言通りの白いLEDが照らしている。
「気になるよ」
「色、変えてくれたんすね」
「え、うん、…キレイやろ」
「はい……とりあえず、イリエ町方面に出てください」
「ほいほい…」
道なりに車崎は南へ走り、線路を越えて国道を縦断し橋を渡って、イリエ町に入り
「そこのスーパーに」
と秋花が指示を出すまで真っ直ぐ走った。
そしてスーパーの駐車場に停まらせて
「シンタローさん、」
と姿勢を正した秋花が車崎を見つめれば、銀毛の狼のような彼女の迫力に男は一瞬怯む。
「な、に、」
「コーキって、女の子やったんですね」
「へ、」
なんだそんなこと?細い目を剥いた車崎は驚いて、しかし明らかに安心した様子を見せた。
「うん、せやで、女の子、」
「なんで、私にその事言わへんかったんすか?」
「なに、女の子ってこと?え、なんで?」
「理由があるんすか?わざわざ隠したんすか?」
もうエンジンも切ったし手元が狂うことも無い、秋花は冗談でも[彼氏の浮気を追及するなら運転中』なんて実行はできない。
なのでそこそこの防音の効く車内で、でも行き交う人目がある場所で、敢えて詰問することにしたのだ。
「ちょい、え、何を…何が問題なん?」
車崎は秋花の剣幕に驚きはするものの何がそこまで彼女を怒らせているのかが理解できない。
整備士は整備士、一緒に働く上で経歴や経験は気になるものの性別は記号程度にしか気に留めないのだ。
なので恋人が
「若い女の子と!一緒に!一から会社盛り立てんのを!………なんで黙ってたんや、って!そう聞いてんねん!」
とえらくご立腹なのも
「え、なにがご不満?え?」
となかなか真剣に飲み込めなかった。
「しやから……そ、そんな、先がどうなるかも分からへん、若い子ぉと苦楽共にしてて、情が湧いて……う、浮気とかしてもうたらどないすんの!」
「はぁ?」
「はぁ、やあらへん!真面目に話してんねん、私は、」
「落ち着け、シューカ。なに、やきもち?」
あぁそういうことか、やっと事態が飲み込めた車崎はやや茶化して秋花の怒りの炎にガソリンを注ぐ。
なにせ身に覚えも無いしこれから危惧されているような心配事を起こす気も無い。
最初は交際もしぶしぶOKしてくれた秋花が嫉妬してくれるとは…車崎はついつい良い気分になってしまう。
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