彼女は銀狼ギャル、ときどきコアラ

茜琉ぴーたん

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6日目

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「この前…シンタローさん来た時は?もう付き合うてたけど…何も言うてへんかった?」

「ぜーんぜん、いや、お線香あげて、お母さんとはなんや話してたみたいやけど…ほら、ミズモリ車装の、」

「まぁお試しやったからね…でも本気で付き合おう思うたから…うん、交際してんねん」

「いやぁ、お母さんに電話してお赤飯に替えて貰おか?」

「ばっ!ばー、」

表から砂利を踏み締める音がして、大人が勘付くよりも先に樹が掃き出し窓の方へ顔を向けて反応した。

「あほか、嫌やん……あ、帰ってきたかな」

「ただいまぁ、あ、秋花、いらっしゃい」

「お邪魔してますぅ」

一応家を出ているのだから客扱いか、秋花はわざと他人行儀に応える。

「お母さん、ワッフル貰ったから先に食べる?」

「ええね、いただこ」

「仏壇の下げてくるわ」

 未来はスマートフォンを握って仏間へ向かい、樹は秋花の膝の上で物欲しそうにワッフルを見上げていた。

「いっくんにもあげてええんやろか」

「ミラちゃんに聞いてからな、あ、美味し♡……晋太郎しんたろうくんがこの前持って来てくれた饅頭も美味しかったで、お礼言うといて」

「はぁ…母さん、もう聞いてるよな?あの…シンタローさんと社長のお孫さんがミズモリを復興するっていう…」

「うん、聞いたよ。…名前もそのままやるって言うからな、『もう晋太郎くんらの代やから好きに付けたら』って言うたんやけどな…お父さんを立ててくれて…ほんまに律儀な子ぉよ、」

「うん……来年の春には今の店辞めるて…あ、ミラちゃん、ワッフルあげてええの?」

 仏間からワッフルを下げてきた未来へ、秋花は自分の分を少し千切って尋ねる。

 下げた代わりに線香を焚いたのか、ふんわりと廊下からこちらへ白檀の香りが流れて来ていた。

「ん、これあげるからええよ、しゅーちゃんはそれ食べて?いっくんおーいで、」

「ぱっ、ん、」

 居心地が良いのだろう樹は秋花の膝から降りたがらず、未来は

「そんなにおっぱいがええんかいな」

とボソッと呟いてからワッフルの生地を小さく千切って口へと運ぶ。

「…可愛いな、いっくん」

「ほんまになぁ、あんたもチャンスがありゃ子供作りや、体力あるうちにな、」

「せやねぇ、うん…」

これから車崎との結婚があるとして、彼は不安定な自営業になるわけですぐに子供は見込めないかもしれないな…ついついそんなところまで想像が及び、秋花は苦笑いをしてしまった。


 そんな姿を見つつ、未来は最新の浮いた情報を母へリークする。

「…ねぇお母さん、しゅーちゃん…彼氏できてんてよ」

「へ、あんたに?誰や、晋太郎くんを差し置いて…会社の人か⁉︎」

 もはやギャグの様、わざとか演技か、秋花は母の反応にどうにも作為的なものを感じた。

「いや、そのシンタローさん、やねんけど…」

「はぁ!ちょいミラちゃん…赤飯の素あったかいな、」

「赤豆の缶詰ならある、」

「炊こ、祝いや!」

 このシンクロは申し合わせたのか芝居か、しかし未来のリアクションは自然だったように思う。

 ならば何となく勘付いていたのだろうか、この母は案外食えないところがあるのだ。

「やめや、恥ずい」

「ぱあっぷぅ、」

「うんうん、いっくん、おばちゃんに彼氏ができてんて、良かったなぁ、ミラちゃん、そこの食べ、代わるから」

母は未来からワッフルを貰い、樹へ続きを与える。

 未来は新しいものを取ってかぶり付き、母の買い物荷物の仕分けにかかった。

「母さん、もしかして知ってた?」

「いや、晋太郎くんが秋花のこと好きなんは知ってたけど…まさかほんまに纏まるとはな」

「知ってたんか」

「あはは、この前『適齢期やねんから貰うたってや』言うたら、顔真っ赤にして『真剣に考えます』言うてたよ。その後?」

「いや、その前からもう付き合っててん…」

「せやったん?嫌やわぁ、しやったらお父さんにも紹介したのに~」

「大丈夫やろ…」

真面目な車崎のことだ、仏壇に手を合わせた際にきっと報告していたことだろう…秋花はそう信じている。
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