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6日目
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しおりを挟む6日目。
「こんにちはぁ、」
「おかえり、しゅーちゃん!」
「ぱっ、ぷぅー、」
この日、秋花は同じ市内の実家を訪れていた。
出迎えてくれたのは兄の嫁・未来とその息子・樹である。
「ついこの間ぶりやけど…いっくん、ひとり歩きが上手になったね、ハイ、お土産」
「うん、突然覚醒したみたいにな、テコテコ歩きだしてん…わ、ワッフルや♡ありがとう、」
「人数分あるから…いっくん、こんちは、」
「ぱぷー…ぷー」
1歳3ヶ月の幼児は喃語を可愛らしく話し、はてこの人は誰だっただろうかと記憶を浚っているかのように叔母の顔をまじまじと見つめていた。
「あとこれ渡すのがメインやってんけど、一昨日淡路島行ってきてん。近いけどお土産…いっくん、コアラて分かるか?靴下な、しゅーちゃんとお揃いやから、また足が大きなったら履いてな」
「わぁ、ありがとう!そこ置いて……短時間なら常温でも大丈夫やんな、ハイ、お父さん、ワッフルですよー」
未来は台所から仏間へ運んだシックな小皿にワッフルをひとつ載せて、義父の仏壇へと供えてお鈴を数回鳴らす。
「食うやろか?」
「嫌いかな?」
「どやろ…母さんは?」
「昼ごはん買いに行ったよ、ハルくんももうすぐ帰ってくるはず」
3人は居間へ進み、未来はお茶の準備を始めた。
母は長年勤めた教職を還暦と同時に引退、たまに学童のアルバイトに入ったりするものの、きままな主婦生活を満喫している。
秋花からすると義姉になる未来は4つ歳下の22歳、夫と同じ家電量販店で働いていたが妊娠してからは専業主婦をしてもらっている。
その夫でつまり秋花の兄・春馬は今は散髪に出ていてもうすぐ帰宅するらしい。
「いっくん、この前…こんな兄ちゃんに車のオモチャ貰うたんやて?どんなんよ、見して」
秋花は両の人差し指で目尻を押さえて下へ引き、車崎の垂れ目を再現して見せた。
「ぷーぅ、」
「しゅーちゃんこれよ、なんや高そうなん、ええんかな」
「わ、これか…」
それはミニカーと呼ぶには大きい全長26センチの大型の玩具で、車崎の好きな映画に登場するガルウィングドアの有名な自動車であった。
「パパもこれ好きやけど…良さが分かるんはまだ先ちゃうかな?」
「うーん…18分の1スケールか、うん…カッコええけどなぁ……いっくん、押して、こないして遊びな、んでもうちょい大きなったら映画観してもらい、」
「ぶー…ぶぅ、」
叔母の膝に乗った樹は床を転がるオモチャを横目で見やっただけで、秋花の胸に後ろ頭を付けては慣れない感触に不思議な顔をしている。
「車崎さんは…ほんまに車が好きやね、あの調子やと、子供にまで車の名前付けるんとちゃう?」
「ありそうやな……ふふっ、ほんまに…しやったら私困るわぁ………ぁ」
頬を染めて甥の頭を撫でて、秋花ははたと不用意な発言に気付いた。
それを聞いた台所で急須を蒸らしていた未来は振り返り、
「しゅーちゃん、え、そうなん?」
と歳上の義妹へ詰め寄る。
「いや、その」
「で、できてんの⁉︎子供?」
「ちゃう、ちゃうって、あの、つ、付き合い始めてん……私ら」
「そーなん⁉︎え、えぇ、やっとか、へぇ、昔から仲良かったから…そうなったらええなとは思うてたけど…へぇ、ええ話になるとええねぇ、」
未来は守谷一家とは幼馴染みで、嫁入り前どころか生まれてすぐから秋花とは懇意にしてもらっている。
親戚であり友人、良き話し相手、ファミリーなのである。
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