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4日目
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しおりを挟むしばらく走って高速道路から下道へ、南西の道の駅を目指す。
「楽しみやな、玉ねぎのハンバーガー」
「甘いですもんね」
「なんや、ご当地バーガーの賞獲ったとか書いてあったで」
よほど調べたのだな、秋花はうんうんと頷いては島の景色にも目をやった。
敷地内の駐車場へ停めて少し高台へ、二人はいい匂いのする方へ自然と目線を合わせる。
「あれやな、」
「はい…ええ匂い」
「1個ずつ、違う種類頼んでええ?」
「いいっすよ、半分ずつ食べましょ」
玉ねぎのフライが挟まったボリューミーなバーガーを2つ買い、海が見えるベンチまで少し持ち歩いてそこで開いた。
「美味しそ、シューカ先に食べ、」
「なんで?そっちの食べたらええのに」
牛肉入りを秋花に渡し、車崎はもうひとつに手を付けずにニコニコと笑っている。
「ん、玉ねぎやから手ぇで千切られへん。俺の歯形の後は嫌やろ」
「今更…食いかけとか散々貰うてきましたやん」
「気にならへん?…ええの?」
「いいっすよ、あったかいうちに……ん、美味♡」
名産の甘い玉ねぎの輪切りフライに地産牛肉とトマトソース、旨そうに大きな口を開ける秋花を見て車崎は生唾を飲んだ。
そして自分も、と同じく玉ねぎフライにオニオングラタンソースの掛かったバーガーをぱくりと齧る。
「…うん…あ、…美味い……サクサク、」
「ね、半分食べたら、替えっこしましょ、美味いわ、なんぼでもいけそう」
「ん、でもこれグラタンソース、トロトロで垂れる、シューカ、」
呼びかけに応えた秋花は断面から溢れかけたソースの下に手を受けて、
「ん、半分食べちゃって、シンタローさん」
と急かした。
「ん、すまん…忙し……ん、ううあ」
「ここで替わりましょっか、はい、すんません食べかけを」
秋花もビーフバーガーを半分食べ切り、残りを車崎へと差し出す。
「すまん、ほい、離すで、」
「はいはい、あ、垂れた…ん、美味♡好き、これ」
掴んだ手に垂れたソースに舌を付けてまず味見、その表情と湿ったリップ音にさえ車崎は胸をときめかせる。
「…シューカ、お行儀悪い」
「は?あきません?美味し…ええとこですね……風が気持ちいい」
「ん…渦潮、見れるかな…」
車崎は自身も手に付いたトマトソースをこっそり舐り、包み紙を綺麗に折り畳んでビニール袋へ収めた。
「スカート、可愛いよ。シューカ」
海風に靡くワインレッドのワンピース、改めて秋花の全身を眺めた車崎は目尻を下げる。
「やめてくださいよ…」
「持ってへん言うてたのに」
「いや、その…」
「こっそり持ってたんか、前の男のためか?あ?」
「ぅわ、」
目を伏せて銀髪を掻く細い腕を冗談ぽく絡め取れば、上げた顔はほんのり紅くなっていた。
「ちゃう、か、買いに…行ってん…まだ、店開いてたから…」
「は…昨日か?このデートのために?」
「そう…ですよ…」
秋花は手を振り解き、ぽっぽとしたので上着の袖から腕を抜く。
「俺との、デートのためにか?」
「せやからそう言うて」
「シューカ、」
上着を抱える腕を再度捕まえ、
「おおきに」
と至近距離で細い目が笑めば、ほんのりから更に濃く、耳までじんじんと彼女の白い肌が紅く染まった。
「な、に、」
「俺とのデートのためにスカート買う、こんな可愛いことあるか?世界一ちゃうか?」
「やめて、シンタローさん」
車崎は海に向かって叫び出しそうな勢いで喜び、海沿いの手摺りに両手を掛けて足を踏み鳴らす。
告白マジックの次は海マジックかと思ったが、彼のその様子を見れば「そうでもないな」と、秋花はすうっと平常心に戻ったのだった。
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