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安全第一
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しおりを挟む車崎の運転で向かったのは近くの中華料理屋、注文を聞いてから品物が出てくるまで30分も待たされる老舗店であった。
「え、ここめっちゃ時間かかりますやん…」
「オーダー入ってから餃子作り出すからな…でも美味いよ、奢りやから黙って付いてき」
「へーい…」
気が落ちて誰かと一緒に居たいような、そう思ってはいたが少なくとも30分は帰れない。
良いような悪いような、秋花は微妙な心境で先輩の後を付いて店へ入る。
「俺日替わり。この子は満福Aセットで」
「あいよ、日替わりと満福Aね、時間貰うよ~」
「え、シンタローさん、私そんなに食われへんよ、」
満福セットはおかず5品と白飯にスープ、少しずつ色んな味を楽しめる贅沢な盛り合わせである。
割と食べる方の秋花だが、今夜はそこまで腹が減っていないので慌てて車崎へ困り顔を向けた。
「俺もそっち摘むから。日替わりのコロッケ好きやねんけど単品で出さへんからな、これが一番ええのよ。うん……今日は…疲れたな、」
「シン………まぁ……はい…」
「呑まれへんけどな、うん…しっかり食べて、鋭気養おな、」
秋花はそこでやっと、車崎が敢えてこの店に連れて来てくれたのだと理解する。
独り放って置けないほど辛そうに見えたのか、しかし「話せよ」と言って連れ出すのも野暮だろうし…秋花は車崎の優しさに気付き目を伏せてはにかんだ。
「そっすね……うん…今日のお客さん…ちょっと疲れましたわ…なんて言うか…クルマの捉え方が私とちゃうんやろなぁ…大切にはしてんねんけど…ルールはきちっと守ってほしいなぁ」
「うん…まぁ俺もドレスアップ好きやけど…安全に走るのが前提やからな。最低限のラインはクリアせなね」
「ほんま………いや、すんません…心配かけて」
手持ち無沙汰な秋花は氷がたっぷり入ったお冷に口を付け、眉を下げて笑って見せる。
「そら心配よ。んー……ちゃうかったらごめんやけど、先月の希望休、あれ…親父さんの法事か?」
「あ、そうです…十三回忌してきましてん…早いっすね、ふふ…」
「そうかぁ…ん…また線香あげに行ってええか?俺もお世話になってんもん…」
車崎もお冷をぐびと飲み、ふーと息をついた。
そして、
「いつ…何が起こるか分からんもんね…」
と氷だけになったグラスにピッチャーの水を追加する。
「…ほんまに…思い出してもうて…暗なって…敵いませんわ」
視界不良の車による事故、身近な人の死、秋花はそれを過去に経験していた。
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