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しおりを挟む和久は雅を連れて先に車へ入りエンジンをかけた。
「かい君、もう帰れる?」
「うん。ケア方法は事前に聞いてるしな。垣内がまた説明受けとるかもしれへんけど」
「ふーん…あ、かい君、そういえばな、今度お母さまの具合の良い時にお昼ご飯食べて、「じんせき」のお庭を散歩しましょうて、また教えるから、連れて行ってな?かい君達もご飯食べて行ってねって」
「ほぅ、ええな…けど俺らはいつも通り別室やろなぁ」
「そっか…つまらへんな…」
雅と冴子の面会は大概「じんせき」にて、人払いをして二人きりで行うようになっている。
和久は後部座席へ振り返り腕を伸ばし、しょんぼりする雅の頭を撫で、
「親子水入らずで楽しんでき、俺らも温泉いただいて来るから」
と二重の目を細めて微笑んだ。
「うん…」
「あと俺らは使用人、影みたいなもんやから、奥様の前で俺らと仲良くしてる話はしたらあかんよ、わかってるね?」
「いつもそれ言うてる…かい君、仲良くしたらアカンの?」
「してもええよ、奥様の前で俺らの名前を呼んだりせん方がええよって言うてんのよ。お嬢も年頃やし……垣内に惚れてんのがバレたら引き離されるかも知れんよ?」
声量を下げてこそっとそう囁けば、少女は一瞬で顔を赤らめて
「あっ………」
と困り顔で和久を見つめ返した。
「……かい君、知ってたん?」
「見てたら分かるよ、初恋やもんね……成就させてあげたいからさ、焦らんとこ、恋バナは俺に聞かしてよ。あとアイツに変なことされたら言わなあかんよ……約束やで」
和久はいつも通り、雅と適度な距離感で話をしては自分の都合の良い様に事を運ぶ。
しかし彼女とて何でも親に喋るほど素直な子供では無い、昨夜の垣内との一件は「親にも言えない秘密」として大切に温められていくのだ。
「うん…なんか……お父さんみたいやね、かい君は」
「ほほ…ほんまにな」
「…ふふっ」
それぞれが何かしらの秘密を、守るものを抱き、人を騙しながら誤魔化しながら生きている、雅は悪い大人へ片脚を踏み込み、少し大人の顔で伏し目がちに微笑んだ。
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