お嬢の番犬 ブラック

あかね

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「とんだ濡れ衣やで…俺、二十歳なるまでタバコ吸うてへんのに。俺は名誉を失ったよ……元々あれへんけどさ」

「可哀想になぁ、もしお前がお嬢と結婚することになったら、DNA鑑定して屋敷に貼り出さな、古参の使用人供が納得せぇへんやろね…」

「だるっ…敵わんなぁ…ほんま…誰なんやろな、お嬢の父ちゃんは…」

「そこは旦那さんでええんやないの?なんだかんだで子作りくらいしてたやろ…たぶん」

「旦那さんは…お嬢の成長なんか興味無いねんな、滅多に帰って来んし…まぁ俺らが父親代わりやから充分か、ひひっ」

「まぁ…お嬢が幸せになるんやったら、俺は誰と結婚してもええよ。垣内かいちでも許すわ」

「なんで和久わくちゃんに許されなあかんの…許すんは奥様と旦那さんやろ」

「せやなぁ…まぁ、お前も娘を持ったら分かるって…」

 和久は遠い目をして知った風に呟く、それを掻き消すように処置室の扉が開く音がして、垣内の耳には全ては届かなかった。


「ん?なんて?聞こえへ」

「お待たせ!終わったよー!」

「あ、おかえり…」

 施術を済ませたみやびを和久が駐車場へ連れて行き、垣内はどうも釈然としないまま会計を待つ。


 少し前から和久へ感じていた違和感、立場は同じなのにいつも自分の事を試すような、えらく上から物を言うような妙な感じ。

 何か大きな物を背負っているような、何かを成し遂げたような。

 尋ねたところで奴は口を割らないだろう、垣内はこれからも不思議な気分を味わいながら過ごして行くことになる。
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