お嬢の番犬 ブラック

22

　翌日、歯医者の待合室。


「垣内かいち、お前さぁ、著しく年下の女性を性対象として見てんのか？」

「はぁ？……ちゃうよ…お嬢が好きなだけや…ロリペドと一緒にせんとって」

他に誰も居ないのを良いことに、垣内はスマートフォンの雅みやびの画像をニヤニヤと眺めていたので和久わくからそのような指摘を受けてしまったのだ。

「いや…自分の娘くらいの歳の子にさぁ、こない夢中になるって…ええねんけど、ちゃんと責任取れよ？」

「ええんかな？俺…婿入りしてもええんやろか？」

雅との結婚、それは即ち神石じんせきグループの長になるということ、経営などに興味の無い垣内は怠そうに脚を組み換える。


「血が繋がってへんなら、ええんちゃうの？」

「………繋がってるわけ無いやろ…あ、お前、あの噂真に受けてんのか？」

「ほほ…ほんまの所、どうなんかな？とは思うてるよ」

「俺と奥様がか？絶対あれへん…会うたことも無い」

「ほー」


　それは雅が生まれるもう少し前の事、彼ら二人が入社して初めての夏のこと。

　土建・不動産の社員が一斉に１週間の夏季休業に入り、帰省などで社員寮から人出が減ったある日のこと…毎日回収する冴子さえこの部屋のゴミ箱から煙草の吸殻が見つかったのだ。

　冴子は身体が弱いので吸わないし、屋敷の使用人にも喫煙者は居ない。

　彼女は「主人のよ」と言い張ったが婿殿が嫌煙家であることは既に周知されていたので、それが嘘であることは明らかだった。