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しおりを挟む垣内をはじめ住み込みの男性使用人の殆どは本宅の隣の離れに部屋を貰っているので、食後は皆それぞれの部屋へ戻り就寝準備をする。
彼が共用の浴場から戻って、やれやれと縁側の窓を開けてポケットの煙草に手を掛けると、
「はや君っ…」
と声がして、母屋から庭を通って来た雅がコソコソとツツジの茂みから顔を出す。
「お嬢、何してん、こんな所来たらあかんよ…」
垣内は周囲を確認して縁側からサンダルで広い庭の端へ、自社の庭師が綺麗に刈りそろえたツツジの陰へ入れば少女がちょこんと庭石へ腰掛けていた。
「お嬢…寒ないか?どしてん…」
「お風呂上がりやから大丈夫、あの、プールのこと…ちゃんと言えてへんかったから…はや君、うちのために怒ってくれてありがとう、ほんまに…ありがとう…」
濡れた髪からポタリと垂れる水滴が首のタオルに吸われ、取りこぼした滴はそのまま彼女の鎖骨へ落ちてパジャマの中へと滑っていく。
「ええよ、仕事やし……わざわざんな事言いに来たんか…」
目線を逸らして煙草を収め、垣内はくしくしと頭を掻きながら雅の隣へしゃがみ込んだ。
「お嬢、悪かったな…怖かったろ…」
「はや君は悪うないよ…まぁ恥ずかしかったけど…。怖いのと…ビックリしたん…でも、声を出せんとアカンよね、痴漢とかに遭うこともあるかもしれへんし…」
少女は強気な顔で握り拳を作り、膝の上でむんと構えて見せる。
「………」
薄手のコットンのパジャマ、裾から覗くサンダル、柔らかい髪からは上質なシャンプーの香り…今の少女を構成する物はほとんど垣内が誂えた物。
長い時間をかけて大切に育んできた少女はついに女になった、繁殖が可能な身体になってしまった。
心だって徐々に大人になる…それを自分以外の男がケチを付けた。
「遭わさへんよ、ずぅと俺らが送迎するから。もうこれ以上誰にも…汚させへんよ…」
小首を傾げて少女を覗き込む、月に照らされた垣内は素の男の顔でひどく形相を歪ませる。
「はやくん…、あ、」
雅が慄いて肩を竦めたと同時、垣内はその肩を掴んで首元にカプリと歯を立てていた。
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