お嬢の番犬 ブラック

茜琉ぴーたん

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「なに、あかんかった?部屋の掃除とかも全部してくれてるよ、俺らはもう入ったらあかんらしいから」

「なんでよ」

「なんでて…お嬢がちょいと大人になったからやんか…言わさんとって」

 みやびは先日初潮を迎えた。

 そこでガサツな男二人では相談も出来ぬだろうと女性を専属に加えたわけである。

「……」

そんな事は分かっている、分かっているがしかし…少女は、垣内かいちが自分以外の女性を指し示すことが、褒めることが、かつて無いほどにイライラムカムカしてしようがないのだ。


「もう…髪の毛括ったりしてくれへんの?」

「しやね、あの人上手やろ?俺らは送迎とか習い事付き添ったり…ぼちぼち宿題も見れんくなるな、なぁ和久わくちゃん?」

「んー…算数・数学ならなんとか…文系科目はサッパリやなぁ」

 彼らとてしっかりと高校を卒業しているのだが理解度と教える能力はまた別、そして雅は既に中学生レベルの単元まで予習を始めている。

「プロの…家庭教師とか…そういうのもありやね、」

「ふーん…」


 雅の機嫌は治らないまま車は長い坂を下り、大通りへ出る交差点で和久はいつもの左折レーンではなく直進レーンへ並んで停止した。

「…どない…、スイミングやろ?まっすぐ行くん?」

「うん、時間あるし、商店街寄ろかと思ってね。お嬢の好きなもん買うてあげるわ」

「え、なになに?」

少女は分かりやすくテンションを上げて、ミラーではなく運転席の和久の横顔をキラキラの瞳で凝視する。

「持ち歩き専門のパフェの店がオープンしたらしいのよ。今の時期やったらブドウとか桃とか…映えるヤツらしいわ。歯医者の前にな、今日食べとこ」

「わ……うん!かい君、ありがとう!」

気落ちした時にすっと励ましてくれる和久は頼りになる、雅はニッコニコで背もたれへ体を直した。

「はえ~よぉ知ってんな、おっさんやのに」

「出入りの業者さんが言うててね、看板描いたらしくて…」


 学園の丘の麓には幹線道路が東西に走り、それを越えた所に小さいながら地元民御用達のアーケード商店街が展開されている。

 交差点から片側二車線の道路を越えて商店街へ、和久は大体の位置を確認してから一旦路肩へ停車した。
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