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しおりを挟む聡太は薫の向かいに座り込んで、「うんうん」と頬を伝う涙を指で堰き止める。
暗いんだから顔色なんて見えやしない、リビングの明かりだってここまでは届きもしない。
僅かに瞳に光が反射するくらい、けれど互いにそれが自分のそれと噛み合っていることが分かる。
あぁ愛しいな、すぐにでも抱き締めてしまいたかった聡太だが、クールな薫から「でももう諦めたわ」と言われては敵わない。
是が非でも合意が欲しいところ、肩をがっちり掴んで
「薫ちゃん、一番重要なこと改めて確認しておきたいんだけど、薫ちゃんは今でも僕のこと好きでいてくれてる?」
と暗闇に笑む。
「す、好き…よ」
「良かった、それが確定しないことにはね。すっぱり引っ越しちゃうクールな薫ちゃんだもんね、もうすっかり切り替えて僕に無関心になってたらこれから苦労するからさ」
「……」
聡太は巾着を持つ手をそれごと大きな手で包み込み、
「…薫ちゃん、好きです。僕と結婚を前提に付き合って下さい」
とスタートの口火を切った。
「え、あ、」
「僕は、薫ちゃんからの片想いに心を打たれた。半同棲で暮らしぶりも分かったし…色々と順番がごちゃごちゃしちゃったけど、双方の想いが分かった今、ここがゼロ、スタートだよ」
「でも私、嘘ばっかり」
「お互い様。自分を大きく見せるための嘘はおしまいにしよう、これから僕は薫ちゃんにつまらない嘘はつかない…約束する」
「わ、たしも……聡太ぐんに嘘、つかないっ…ごめ、ごめんなさいぃ…」
抱き締められればシャツに染みる温かい涙。
まるで子供のように泣きじゃくる薫は化粧落ちも気にせずに聡太の広い胸に埋もれる。
聡太はよしよしと背中を摩って、ぽんぽんと鼓動をコントロールするようにゆっくりゆっくり指先で拍子を取った。
「落ち着いたかな?…とりあえず台所片付けよう、それでこのまま泊めてくれる?床で寝るから」
「良いよ、ベッドで」
「ううん、それじゃ抱きたくなっちゃうから」
「……別に良いのに」
別に知らない仲じゃなし改めて通じ合ったのだから仕切り直しに抱かれても良いのに、薫は悶々としつつも食器を片付ける。
なんせ晴れて本物のカップルになったのに片道5時間の遠距離である。
滅多に会えないのなら体の感触くらい上書き記憶しても良いなんて思っていた。
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