52 / 73
8
52
しおりを挟むそれから薫はハイスピードで夕飯を作り盛り付けて、いかにも腑に落ちないといった顔でリビングの座卓へと配膳した。
しばらくぶりの二人の今夜の食事は鶏の照り焼きと千切りレタスにスーパーのポテトサラダ。
薫は申し訳なさそうに茶碗を渡すも、聡太はうきうきと受け取って箸を取る。
「いただきまーす………うん、美味しいね」
「そりゃお惣菜だもん」
「こっちの鶏肉も美味しいよ、薫ちゃんは料理上手だよね」
「ありがと…」
何だろう針の筵か真綿で首を絞められる感じ。
やはり喉元のナイフは離れただけで横に待機しているだけなのではと薫は気持ち悪くて仕方ない。
騙して結婚を迫って半同棲してバレて…自分の行動が悪いことだと理解しているのだからいっそ厳しく罰して欲しいと思う。
しかし聡太はニコニコとご飯を頬張りおかわりまで求める。
抱き締められたしなぁなぁで許されるのか、それもそれでどうなの。
薫は混乱したまま何とか夕飯を食べ切った。
「ごちそうさま、コホン……あの、聡太くん…」
「薫ちゃん、まず、ごちそうさま」
「あ、うん、」
「それから、ごめん」
「……何が?」
いやが応にもキョトンとなる薫をフォローもせずに、聡太は口を拭いて足を崩す。
「色々。あのね、まず、そもそもの薫ちゃんの計画がダメだったことは当然なんだよね、前も言ったけどその不謹慎さとかに僕は嫌悪感があったよ」
「うん…ごめん」
「それで、あの時僕が薫ちゃんを信用出来なかったのは、『薫ちゃんが僕を好きになった』っていうのが信じられなかったからなんだよ。長年一緒の会社で働いたけどそんな実感無かったし、騙されたって知った後だったから余計に信じられなかった」
「うん…当然だよ…」
「薫ちゃんはすっぱり僕を諦めて引っ越しちゃうし…やっぱり僕への好意も嘘だったんだ、そう思った」
「……」
改めて告げられる自身の罪。
この後罰を受けるのかそれとも…薫は居心地悪そうに三角座りの素足を手で包む。
あの日泣いて伝えた聡太への好意は出まかせの言い訳にしか聞こえなかっただろう。
逆の立場ならきっと信じられない。
ただの同僚に戻ったのだろうか、だとしたら部屋に上がったり抱き締めたりの整合性が取れず聡太が軟派野郎になってしまう。
薫はモヤモヤとしつつ頷く。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【短編】愛することはないと、嫁ぎ先で塔に閉じ込められた。さあ。飛ぼう!
サバゴロ
恋愛
十年続いた戦争が終わり、和平の証として、両国の王子と王女が結婚することに。終戦の喜びもあり結婚式は盛大。しかし、王女の国の者が帰国すると、「あんたの国に夫は殺された」と召し使いは泣きながら王女に水をかけた。頼りの結婚相手である王子は、「そなたを愛することはない」と塔に閉じ込めてしまう。これは王女が幸せになるまでの恋物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる