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しおりを挟むこの強気でクールな女が荒唐無稽なお願い事をして涙を見せるのか。
さすがに聡太は酔いも覚めてきたが今ひとつこれが現実のことに思えない。
何事もシャキシャキ片付ける事務の鬼とぶっ飛んだ提案。
何かのドッキリか、そんなことある訳無いと思いながらも落ちの多い計画が逆に切迫度を感じさせる。
ならば折衷案ならどうだろう、
「あのさぁ……その…お試しというか…同棲、から始めてさ、ご両親に挨拶してさ、しばらくそれで過ごして…期限を設けてね、例えば1年とか…入籍しないことを不審がられたらそこで婚姻届を出すとかさ、その…段階を経ようよ」
と言うと
「…それなら良い?」
薫の目に溜まった涙は落ちそうで落ちない。
外灯の光を反射してふるふる揺れた。
「うーん、良くはないんだけどさ、いきなり結婚ってのがやっぱおかしいよ」
「良いのね?」
「いや、」
「男に二言は無いよね」
「僕、そんなに男らしさを推して生きてないんだけど」
さて初めから勝算があったのか、薫の目からはすんと涙が引いてキラキラ輝いていた。
それどころかもう笑っている。
人は追い込まれると逆に笑ってしまうのだろうかと聡太は呆気に取られため息を吐いた。
「まずは住む所を決めよ、私のアパートにする?」
「いきなり?」
「うん、親睦を深めなきゃ。演技だけじゃボロがでるんでしょ?」
「うーん…とりあえず…そうしようか…」
「生活基盤が出来たら式場の下見かな」
「待ってよ、まずご両親に挨拶でしょ」
「あ、そっか、ふふっ」
暗がりに浮かび上がる薫の笑顔のチャーミングなこと、聡太は初めて見たその表情に心を掴まれる。
「(単純だな…僕…)」
少なからず自分を求めてくれる相手だとこんなにも可愛く見えるものなのか。
『異性』としてのフィルターを透かした薫はそれなりに魅力的に映った。
「じゃ、帰ろっか」
「うん…」
「あー、良かったぁ…」
「(ゴキゲンだねぇ…)」
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