ライアー・ブライド…真面目な僕らの偽装結婚

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
上 下
72 / 73
エピローグ…薫ちゃんは憂鬱

72

しおりを挟む

 その夜。

「…ただいまぁ…」

叱られることを覚悟していたのだろう、聡太くんは手に私好みの缶チューハイを数本と甘味を携えて帰って来た。

 そしてこちらの口が開く前にガバっと膝をついて、まさに平身低頭でぺこぺこと謝り始めた。

「薫ちゃん、ごめん、」

「何がぁ?」

「いやさ、薫ちゃんが戻って来るまでにイメージアップというか、印象を良くしておこうと思って」

「赤裸々に言いふらさないといけないくらい、私の印象は悪かった訳ね」

私はしぶしぶコンビニの袋を受け取って、中身を確認してそれごと冷蔵庫へ突っ込んだ。

 積極的に馴れ合わなかったから本性を知られてないのは当然だ。

 片想いしていた聡太くんとも仲良くなったのはごく最近だし致し方ない。

 仕事に邁進まいしんしルールに忠実であっただけ、社則に『積極的に同僚と会話すべし』なんて書かれていれば私は従っただろうし。


「違うよ、ツンツンの清水さんをツンデレな薫ちゃんにしておこうと思ったんだよ」

「よくもまぁ人の隠してることをベラベラと…片想いとか…恥ずかしいことを…」

「ごめん、可愛い薫ちゃんは僕だけが知ってれば充分だったよね」

「そういうことを言ってんじゃないの‼︎」

「まぁまぁまぁ、ごめんって…でもほら、周りからの見る目が変わったでしょ?」

聡太くんは大きな体で私を囲い、ゆらゆらゆりかごみたいに振れて無理矢理の懐柔を図る。

 恋焦がれてこじらせたほど欲したこの温もり、彼は私からの好意に胡座あぐらをかいているからこれで許されると思っているのだ。

 悔しいが許してしまいそう、聡太くんの心音が耳に心地よい。


「…変わったからこんなに怒ってんでしょ。仕事しづらい」

「同じ職場に居てもさ、深く知ることは出来ないじゃない。当たり前に仕事して、それで恐いイメージ持たれるのって報われないじゃない」

「別に、皆に好かれたいなんて思ってないし」

「好かれなくても、誤解されてるのは嫌だったんだよ…僕が。薫ちゃんは恐いだけの人だって思わせておきたくなかったんだ。勝手に喋ったのは悪かったよ、でも自分の奥さんが変なふうに誤解されてるのは気分が良くないから」

 手の大きさが違うのに恋人繋ぎをするからこちらはひどく無理をする。

 指と指の間に入り込むゴツゴツの関節が当たって痛い。

 力では絶対勝てないし次第に穏やかになる気持ち、彼の言葉ひとつひとつに私は時にとろけてしまいそうになるから戦うだけ無駄だった。


「おくさん…」

「そうだよ、奥さんになるんだよ。指輪もぼちぼち注文しに行こうね……ところで奥さん、今日のご飯は?」

「焼き鳥丼…ごめん、私は先に食べちゃった」

「良いよ、早く終わったら待たなくて良いから……そうだ、そろそろ書こうよ、婚姻届」

「う、ん、」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

闘う二人の新婚初夜

宵の月
恋愛
   完結投稿。両片思いの拗らせ夫婦が、無意味に内なる己と闘うお話です。  メインサイトで短編形式で投稿していた作品を、リクエスト分も含めて前編・後編で投稿いたします。

処理中です...