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エピローグ…薫ちゃんは憂鬱
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しおりを挟むその夜。
「…ただいまぁ…」
叱られることを覚悟していたのだろう、聡太くんは手に私好みの缶チューハイを数本と甘味を携えて帰って来た。
そしてこちらの口が開く前にガバっと膝をついて、まさに平身低頭でぺこぺこと謝り始めた。
「薫ちゃん、ごめん、」
「何がぁ?」
「いやさ、薫ちゃんが戻って来るまでにイメージアップというか、印象を良くしておこうと思って」
「赤裸々に言いふらさないといけないくらい、私の印象は悪かった訳ね」
私はしぶしぶコンビニの袋を受け取って、中身を確認してそれごと冷蔵庫へ突っ込んだ。
積極的に馴れ合わなかったから本性を知られてないのは当然だ。
片想いしていた聡太くんとも仲良くなったのはごく最近だし致し方ない。
仕事に邁進しルールに忠実であっただけ、社則に『積極的に同僚と会話すべし』なんて書かれていれば私は従っただろうし。
「違うよ、ツンツンの清水さんをツンデレな薫ちゃんにしておこうと思ったんだよ」
「よくもまぁ人の隠してることをベラベラと…片想いとか…恥ずかしいことを…」
「ごめん、可愛い薫ちゃんは僕だけが知ってれば充分だったよね」
「そういうことを言ってんじゃないの‼︎」
「まぁまぁまぁ、ごめんって…でもほら、周りからの見る目が変わったでしょ?」
聡太くんは大きな体で私を囲い、ゆらゆらゆりかごみたいに振れて無理矢理の懐柔を図る。
恋焦がれて拗らせたほど欲したこの温もり、彼は私からの好意に胡座をかいているからこれで許されると思っているのだ。
悔しいが許してしまいそう、聡太くんの心音が耳に心地よい。
「…変わったからこんなに怒ってんでしょ。仕事しづらい」
「同じ職場に居てもさ、深く知ることは出来ないじゃない。当たり前に仕事して、それで恐いイメージ持たれるのって報われないじゃない」
「別に、皆に好かれたいなんて思ってないし」
「好かれなくても、誤解されてるのは嫌だったんだよ…僕が。薫ちゃんは恐いだけの人だって思わせておきたくなかったんだ。勝手に喋ったのは悪かったよ、でも自分の奥さんが変なふうに誤解されてるのは気分が良くないから」
手の大きさが違うのに恋人繋ぎをするからこちらはひどく無理をする。
指と指の間に入り込むゴツゴツの関節が当たって痛い。
力では絶対勝てないし次第に穏やかになる気持ち、彼の言葉ひとつひとつに私は時に蕩けてしまいそうになるから戦うだけ無駄だった。
「おくさん…」
「そうだよ、奥さんになるんだよ。指輪もぼちぼち注文しに行こうね……ところで奥さん、今日のご飯は?」
「焼き鳥丼…ごめん、私は先に食べちゃった」
「良いよ、早く終わったら待たなくて良いから……そうだ、そろそろ書こうよ、婚姻届」
「う、ん、」
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