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しおりを挟むよしよし成果は出ているな、聡太は盛大な嘘をついて、荷物を開けながらほくそ笑む。
地道な活動が実を結んで万々歳だ。
しかし薫にバレるまでは聡太はこの企みを秘密にするつもりでいる。
というのも聡太は仲の良い同僚へ近々結婚することを約束に反してこっそり明かし、相手は薫だということも教えていた。
大抵は「え、近しい存在とは思ってたけどまさか付き合ってたとは」という反応で、しかし朗らかな聡太が惚れたのだから薫の人柄もそう堅いものではないのだろうと彼女の敷居が低くなる。
「(実際、息が詰まるなんてことも無かったしね)」
扱いづらい薫を御すことで男としてのステータスが上がるなんて最初こそ聡太は思ったが、案外周りの評価を気にする彼女を見ていると考えが変わった。
つまりは彼は自分の面子を上げることよりも、薫の印象を柔和にしてあげる方を選んだのだ。
そしてこのセンセーショナルな交際・結婚スクープは程なくして店内に広まりきった。
情報の真偽を確かめに質問されれば聡太は兼ねてより交際し半同棲状態であったことを伝え、「お堅そうに見えるけど可愛いとこあるんだよ、ツンデレさんなんだ」と褒めちぎった。
愛想の良い聡太がそう言うもんだから薫の評価も自動的に上がって行って、「感情が表に出にくいだけでお茶目な子なんだよ」とプレゼンすれば皆が「そうだったのかぁ~」とすんなり納得した。
馴れ初めを聞かれれば薫の積年の片想いだと答え、彼女のどこが好きなのかと問われれば「真面目なところかな」と少し嘘をつく。
聡太が築いてきた信用のなせる技、そして厳しくはあったが真っ直ぐな仕事をしてきた薫の信頼がもたらした成果だった。
「(真面目が振り切れて嘘ついて突っ走る、一生懸命な子なんだよね)」
聡太は薫が戻って来るまでに散々二人のことを触れ回り、薫が築いた『クールなしっかり者』のイメージを『不器用一途なツンデレちゃん』にしっかり書き換えて彼女の異動を待っていたのだ。
周りから囃されれば薫はギンと睨みつけるだろうか。
けれど「不器用で照れ屋で可愛いんだよ」と広めたから照れ隠しだと分かってもらえるだろう。
伝票のことで冷たく感じる叱り方をしたって、職務を全うする真面目な態度なのだからお門違いに恨まれることも減るだろう。
薫を見る目が変われば彼女も次第に穏やかになってクールキャラを返上する日が来るのではないか。
聡太は頼まれてもないのにそんなことを画策していた。
「聡太くんが言うなら間違いないんだろうけど…」
「あはは、信頼されてるなぁ」
「…嘘は、つかないって言ったもんね?」
「…どうだろうね」
人を守ったりするための嘘なら許してくれないかな、ましてや君を守るための嘘だ…ついた嘘の大きさで戦えばまだまだアドバンテージが残る聡太は、のらりくらりかわしながら二人の愛の巣を完成させた。
そして落ち着いたら小さなブーケと結婚指輪のパンフレットを棚から下ろし、
「薫ちゃん、」
と呼びかけて愛しいひとを振り向かせるのだった。
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