ライアー・ブライド…真面目な僕らの偽装結婚

茜琉ぴーたん

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エピローグ…薫ちゃんは憂鬱

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清水しみずさんは、入籍後は苗字はどうするの?」

 これから結婚することを決めてかかるその言い方。

 事務のいずみ先輩からの質問に私は柄にもなくあたふたしてしまう。


「え、なんで、」

望地もうちくんと結婚したら同じ苗字が二人になるじゃない?不便があるなら旧姓で業務を続けることは出来るからさ…私みたいに」

先輩は、自分の左胸に付けた名札を軽く触って書類に目線を戻した。

 
 今日は三重から神奈川へ出戻っての勤務初日だ。

 店長にしか結婚のことは話してないはずなのに事前挨拶の日から既に他のスタッフの目がいやに優しくて慈しみに溢れていた。

 今話をしていた泉先輩にだって伝えた覚えはない。

 けれど彼女は確定事項でありオープンな情報のように引き継ぎにその話題をぶっ込んで来たのだ。


「違います、それじゃなくて…私、結婚するとか…付き合ってることも公表した覚えが無いんですけど」

「あ、そうなの?秘密だったのかな…にしては皆知ってる感じよ?」

「なんでですか…まさか店長が…?」

「そりゃ、望地くんがペラペラ喋ってるからじゃない?」

「エ」

 なんという裏切りだろう。

 あんなに内密にと申し合わせたのに仲間から背中を撃たれるなんて。

 8年共に働いてやっと婚約に漕ぎ着けて、まぁやり方は賛否があろうが聡太そうたくんも納得してくれていると思っていたのに。


「私も最初は噂で聞いてさ、望地くんに直接尋ねたら馴れ初めからプロポーズ計画まで喋ってくれたよ」

「なん…秘密にしてって言ったのに…」

「そうなんだ?微笑ましくて良い話だと思ったけど。清水さんの長い片想いだったんでしょ?」

「言わないで下さいぃ…」


 私は片想いの末に大嘘をついて婚約に持ち込んだ性悪だ。

 しかも計画は破綻はたんして地元へ無様に敗走した。

 何でか聡太くんが開眼して追いかけて来てくれたから良かったものの、失敗すればとんでもない悪党として彼の記憶に残るところだった大馬鹿者だ。

「恥ずかしがり屋さんなんだもんね?」

「やーだー」

「ふふっ…清水さんとはあんまり浮いた話もしたことなかったもんね、新鮮~…新生活が落ち着いたらお祝い会させてね」

「…ありがとうございます」

 そのまま引き継ぎ事項を確認して仕事の感覚を取り戻して、売り場にチラチラ聡太くんの姿が見えるたびに苛立って「この野郎」と念を飛ばしてしまった。
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