ライアー・ブライド…真面目な僕らの偽装結婚

茜琉ぴーたん

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「薫ちゃん、お使い偉かったねぇ~」

真っ赤になり買い物をして戻った薫へ、聡太はそうねぎらい髪を撫でる。

 紙袋の中は言いつけ通りのコンドーム。

 もう酔いの醒めた聡太はほんの少し罪悪感を抱きつつも、薫の崩れた人相を愛らしいと帰りの道中もニコニコ眺めていた。

「そういうことしてたらいつか復讐されるんだから」

「そう?やめて欲しいなぁ…まぁ薫ちゃんが消えちゃう以上の痛手はもう無いと思うけどな…どうだろうね」

「……」


 今夜はこれから熱い夜になりそうだ。

 けれど明日になりまた離れ離れになると二人の気持ちは続くだろうか。

 薫はアパートの駐車場に着けてエンジンを切りふぅとため息をつく。

 例えばこれから具体的に結婚の話になって段取りを決めて、どちらかの居住地に引っ越したり勤務地を変えたりやることは盛りだくさんだ。

 また甕倉カメクラ本店に元のポストに戻れるとも限らないしかといって他の部門に回る気も無し。

 現実的な問題でぎゅうと押し潰されそうな薫は背中が丸くなってしまう。


「薫ちゃん、肩貸してよ」

 その背中に手を回してずっしり体重をかけて、聡太はよたよたと千鳥足で玄関扉へと歩く。

「重たい…」

「ごめんねぇ、薫ちゃんのご両親と呑むお酒が美味しくてね」

「とと…コケないでよ、んもうっ」

施錠して靴を脱いで明かりを点けて、薫は聡太を投げ飛ばせるならそうしたかったが難しいので玄関に腰掛けさせて先に部屋へと入った。


 指で摘んだ状態の紙袋を台所の作業台へ置いて、さて夕飯だと冷蔵庫を開けるも背中に「薫ちゃ~ん、どこ~」と情けない声が刺さる。

「…聡太くんって、こんな人だったっけ」

 長年見てきた男の初めての姿。

 酔いがここまで長引くのもおかしい気がする。

 実家で余程の濃いアルコールでも呑まされたのか、薫は夕飯を後回しにして玄関へと戻った。


「…薫ちゃん、起こして」

聡太はテディベアのように壁にもたれたまま、呆れ顔の恋人へ手を伸ばす。

 薫が不満げによいしょと脚を踏ん張ろうとするも、当然だが体格の差で聡太は持ち上がらない。

「おもっ…」

「ほら薫ちゃん、頑張ってぇ」

「無理だって、んー」

「あは、そうだよね……よいしょっ」

手をしっかり握った聡太は自力でほいほいと立ち上がり、その勢いのまま薫を胸に抱いた。

「きゃっ……え、え?」

 突如のラブタイムに驚く薫をよちよち後ろ歩きさせてリビングへ、

「薫ちゃん、さっき買ったゴムは?」

と尋ねれば薫は指だけ「あそこ、」と向ける。

「ん、オーケー」

「…そ、聡太くん、あの、」

「なに、」

「私、晩ごはん」

「後で良いじゃない…ダメかな?」


 「お腹空いた」の言葉は防がれて聡太の喉へと消える。

 紙袋を携え方向を変えてよちよちと導かれるのは廊下の先の寝室だった。
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