62 / 73
9
62
しおりを挟む「薫ちゃん、お使い偉かったねぇ~」
真っ赤になり買い物をして戻った薫へ、聡太はそう労い髪を撫でる。
紙袋の中は言いつけ通りのコンドーム。
もう酔いの醒めた聡太はほんの少し罪悪感を抱きつつも、薫の崩れた人相を愛らしいと帰りの道中もニコニコ眺めていた。
「そういうことしてたらいつか復讐されるんだから」
「そう?やめて欲しいなぁ…まぁ薫ちゃんが消えちゃう以上の痛手はもう無いと思うけどな…どうだろうね」
「……」
今夜はこれから熱い夜になりそうだ。
けれど明日になりまた離れ離れになると二人の気持ちは続くだろうか。
薫はアパートの駐車場に着けてエンジンを切りふぅとため息をつく。
例えばこれから具体的に結婚の話になって段取りを決めて、どちらかの居住地に引っ越したり勤務地を変えたりやることは盛りだくさんだ。
また甕倉本店に元のポストに戻れるとも限らないしかといって他の部門に回る気も無し。
現実的な問題でぎゅうと押し潰されそうな薫は背中が丸くなってしまう。
「薫ちゃん、肩貸してよ」
その背中に手を回してずっしり体重をかけて、聡太はよたよたと千鳥足で玄関扉へと歩く。
「重たい…」
「ごめんねぇ、薫ちゃんのご両親と呑むお酒が美味しくてね」
「とと…コケないでよ、んもうっ」
施錠して靴を脱いで明かりを点けて、薫は聡太を投げ飛ばせるならそうしたかったが難しいので玄関に腰掛けさせて先に部屋へと入った。
指で摘んだ状態の紙袋を台所の作業台へ置いて、さて夕飯だと冷蔵庫を開けるも背中に「薫ちゃ~ん、どこ~」と情けない声が刺さる。
「…聡太くんって、こんな人だったっけ」
長年見てきた男の初めての姿。
酔いがここまで長引くのもおかしい気がする。
実家で余程の濃いアルコールでも呑まされたのか、薫は夕飯を後回しにして玄関へと戻った。
「…薫ちゃん、起こして」
聡太はテディベアのように壁にもたれたまま、呆れ顔の恋人へ手を伸ばす。
薫が不満げによいしょと脚を踏ん張ろうとするも、当然だが体格の差で聡太は持ち上がらない。
「おもっ…」
「ほら薫ちゃん、頑張ってぇ」
「無理だって、んー」
「あは、そうだよね……よいしょっ」
手をしっかり握った聡太は自力でほいほいと立ち上がり、その勢いのまま薫を胸に抱いた。
「きゃっ……え、え?」
突如のラブタイムに驚く薫をよちよち後ろ歩きさせてリビングへ、
「薫ちゃん、さっき買ったゴムは?」
と尋ねれば薫は指だけ「あそこ、」と向ける。
「ん、オーケー」
「…そ、聡太くん、あの、」
「なに、」
「私、晩ごはん」
「後で良いじゃない…ダメかな?」
「お腹空いた」の言葉は防がれて聡太の喉へと消える。
紙袋を携え方向を変えてよちよちと導かれるのは廊下の先の寝室だった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる