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しおりを挟む「あと僕ら、『付き合おう』も『別れよう』も言わなかったじゃない、変に大人ぶって何となくなり行き任せで暮らしてた。だからぼんやり離れてモヤモヤして、エッチしたのに呆気なく別れた感じが気持ち悪くて……せめてその、明言して区切りを付けるべきだったよ」
「…うん…ごめん、」
きっと責められているのは自分、と謝罪を繰り返す薫の前に聡太は「待った」とばかりの手の平を掲げる。
そして
「僕は薫ちゃんにばっかり謝らせに来た訳じゃない。だからハッキリさせておく。薫ちゃん、僕はこれまで8年も前から薫ちゃんに片想いされてて、気付けなかった鈍感だ。それでも2ヶ月一緒に過ごして、婚約者だと思えば薫ちゃんの魅力にまんまとハマって好きになったしエッチまでした。これでトントン、イーブン、なんて言うの、ゼロなんだよ、スタート地点に着いたんだ」
とそのまま彼女の白い膝にそれを降ろした。
「うん?うん……待って、なんで8年前って知ってるの」
「お互い好き同士になったんだ、騙されたことを抜きにすれば僕らは遠距離恋愛中の婚約カップルだ」
「…だから、その騙した部分を許して貰えないから…ねぇ、私、去年好きになったって言ったよね⁉︎」
「許すよ、許すと言うか信じる。薫ちゃん、僕は…たぶん薫ちゃんが思うほど良い人じゃないんだよ。お見合い話が止むならって打算で薫ちゃんの案に乗ったし、結婚することで会社での立場が上がるとも思った。身持ちの固い薫ちゃんをお嫁さんにすることで周りからの見る目も変わるんじゃないかって…酔った頭でそんなことも考えたよ」
「……ちょっと混乱してる。ひとつずつ整理させて、私、は、8年近くも聡太くんのこと好きなんて誰にも言ってない、」
交錯する情報、辿る記憶。
「好き同士」という胸躍るワード、薫は慌てながらも保身に努めようと表情が険しくなる。
「そうだね、上手く隠されてたしアピールしてくれないから気付かなかった。意外だよね…でも僕も意外と良い人じゃないんだ。僕だって薫ちゃんに嘘ついたりするもの」
「なんなの、なんで…」
誠実で真面目が売りの聡太像が段々と崩れていく、とすれば薫は膝の上の大きな手に怯え出す。
何かとんでもない爆弾を落とされる予感。
背後の逃走経路を確認したり証拠隠滅のシミュレーションを脳内に描く。
「実はね、昼間…寝室に入らせてもらった。それで床に置いてあった箱の中のムラタの社員手帳、あれ全部見ちゃった」
「ぎやあー!」
ただの手帳としても恥ずかしいのに聡太へのひと言メモを添えたそれはさながらストーカーチックな観察日記。
顔を真っ赤にした薫は聡太の手をぺんと叩いて、今さらながら証拠を消してしまおうと寝室へ走った。
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