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しおりを挟むそれから半月後。
「ここかぁ…結構あったな…」
新幹線と鈍行を乗り継いで薫の住む街に降り立った聡太は、長旅で凝り固まった体をゴキゴキ鳴らして解す。
海岸線に沿った電車は観光客もなかなかに多い。
ひとり旅気分の聡太は土産物なんかも気にはなるが、ともかく薫の働く店舗を目指してタクシーへと乗り込んだ。
メイン駅からは車で20分ほど。
仏淵北店は郊外のショッピングモールの一角に位置していた。
道路を挟んで反対側にはまだ田畑が残っていて、隣の空き地では整地用の重機が大きな音を立てて地面を均している。
新興住宅地にでもなるのだろうか似たような区画をここに着くまでに何軒か見た。
「…いざ、薫ちゃん」
聡太は旅行用のリュックを背負い直して北店のエントランスへと足を踏み入れる。
比較的新しいのか壁もガラスも傷んでおらず、照明もLEDで高い天井もすっきりしていた。
エスカレーターで2階店舗部分へ、上がれば見慣れた光景で聡太は旅先ながらホッと心が穏やかになるのが分かる。
携帯電話売り場が島みたいに散らかって配置され、若い女性スタッフがにこやかに挨拶をくれた。
「(どこも同じだな…配送レジは奥かな)」
壁に沿ってレジカウンターが設置されており一番手前は持ち帰り品の回転率の高いレジ。
その隣には携帯電話を成約する席が業者ごとに数社分続く。
そこから修理受付カウンターがあってその奥に管理職が難しい顔で見詰めるパソコンがあって…
「あ!」
その管理職と談笑する懐かしい顔を見つけた聡太は、ついつい大きな声を上げてしまった。
来客かとスイッチを切り替えるクールな表情。
「いらっしゃいませ」と途中まで言い掛けたその唇がピタと止まってあんぐり間抜けな顔になる。
「そう、も、望地くん、」
「薫ちゃん…久しぶり」
「な、な、なんで、え、え、あの、」
あわあわと目の泳ぐ薫の様子をおかしがりパソコン前の管理職がトラブルかと腰を上げる。
すると聡太はピッと両脚を揃えて向き直り
「お疲れさまです!神奈川県甕倉本店でPCコーナー長をしております、望地聡太と申します!清水さんの忘れ物を届けに参りました!」
ときっちり自己紹介した。
「威勢がええなぁ、お疲れさま。清水さん、引き継ぎあんねやったらそこでしてあげな」
出会い頭の挨拶はムラタの基本だ。
客数も落ち着いてることだし管理職は気を利かして聡太をカウンターへ掛けさせ薫を対応に付かせる。
天井からは本社閲覧可能な監視カメラが吊り下がっているため、一応は雑談ではなく来客対応という体を取らせたのだ。
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