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しおりを挟む場は紛糾するだろうし無いとは思うが取っ組み合いの喧嘩になったらどうしよう…聡太は取り急ぎ「待って」とジェスチャーして自身の分の素麺を食べ切った。
「ごちそうさま、ふー……あのね、薫ちゃん、」
「うん」
「昨日…薫ちゃんが寝てる時にね、スマホの通知を見ちゃったんだ。画面が上になってて音が鳴ったから反射的にね、それで…その、差出人が『お兄ちゃん』ってなってたから、モヤモヤしてるんだ。ひとりっ子って言ってたよね、それでご両親のことが気にかかるって」
「…う、ん…」
薫はあからさまに蒼白になって、いつものように濃い化粧もしてないものだから聡太の目にもその慌てぶりは明らかだった。
「用件は読んでない、さすがにマナー違反だと思ったから…でも気になったんだ。僕は薫ちゃんからの情報だけを鵜呑みにしちゃったからその点ではこちらも迂闊だとは思うよ、でもこれまでの情報に嘘があるなら…放置したままこれから仲良くやっていける自信が無いよ」
「あ、あの…」
「まず答えて。薫ちゃんにはお兄さんがいるの?」
語気こそ穏やかだがそれが逆に静かな怒りを感じさせる。
薫は箸を置いて居住まいを正し、
「うん…いる、弟も」
と兄弟構成を明かす。
ちなみにだが昨夜の兄からの連絡は盆に帰ってくるかどうかの質問で、母から妹の無謀な計画を聞いたのか『成功しそうなら彼氏も連れて来いよ』なんてことが書いてあった。
「そう……あのさ、どうしてひとりっ子だって嘘ついたの?」
「…それは……あの、聡太くんに結婚の、その…ひと押しというか…重要に思わせるため…」
「ひとり娘だから花嫁姿を見せてあげたいもんね、そりゃ…少しでもご両親を安心させて心残りが無いようにしてあげようと……まんまと信じたよ」
「ごめんなさい」
重苦しい空気、吹き出す汗。
優しい聡太の顔色がどんどん曇ってきて薫の息が上がってくる。
もう既に減った信用をさらに失くさねばならない、それは少しずつの方が傷が浅いのか一気にバラした方が楽になれるのか。
卓上のティッシュで額の汗を拭って息を整えて、薫は「あのね、」と発言権を主張し…
「うちの両親ね、あの…余命が短いっていうの、嘘なの…」
と根本を覆した。
「……⁉︎」
聡太はまるで宇宙人にでも遭遇したかのように背もたれに背中をくっ付けて、薫から僅かにでも多く距離を取る。
真面目な薫の人柄をそもそも信頼していたから話を丸ごと信じたし荒唐無稽な計画だって乗ってやったのだ。
それが嘘だったとなるともう以前のようには彼女を見ることが出来なかった。
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