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しおりを挟むヤキモキしつつ昼食を摂り仕事に励み終業し、早番の聡太は先に自宅へ戻って薫の帰宅を待った。
閉店業務があるから22時は越すかもしれない、聡太は合鍵で薫の部屋へと入り冷蔵庫を確認して炊飯器へ米を仕掛ける。
食事のメニューは毎回薫にお任せだが、二人の帰宅時間に差があり過ぎる時は例外的に聡太が簡単なご飯を作って良いことになっている。
米さえあれば茶漬けでも何でも良かろう。
薫が仕事帰りに食材を買うかもしれないが明日に回せば良いだけだ。
「薫ちゃん…地元って…三重か…」
あの話ぶりだと薫は転勤を承諾したのだろう、諦めというか妙にすっきりした顔で応えていたように見えた。
ムラタの転勤サイクルはざっくり3年、転居を伴う者はだいたいそれくらい勤めたら次の行き先の打診が来る。
欠員の補充だったり新店のオープニングスタッフだったりと、店舗数が莫大なので全国どこかに居場所はある訳で…県を跨ぐ転勤は管理職を除けば身軽な単身者に話が振られることが多い。
所帯持ちならファミリー向け物件を住宅補助付きで用意せねばならないが単身者用なら小ぶりの部屋で良いしその分費用も抑えられる。
そんな本社の目論見もあったりするのだ。
そして基本的に転勤は本人の希望は通らない。
それを聞いてしまうと土地により人員にバラつきが出てしまうからだ。
田舎は避けたいとか都会が良いとか個人の趣向で選ぶことはできない。
本人から申し出ての転勤ができるとすればそれは特別…その土地から離れねばならないとか、そこに居ることで業務に支障をきたすなどの理由がある場合のみだ。
例えば離婚して元配偶者の生活圏から離れたいとか、同じもしくは近隣店舗に元配偶者がいる、などそれは周りもやりづらいから有り難い配慮だったりする。
聡太は薫のベッドにもたれて、ボーッとこれまでのことを回想した。
いきなりのプロポーズ、親への紹介、同衾して半同棲して結ばれて…そして騙されていたことが判明。
この虚しさの原因はもちろん嘘をつかれていたということ、もしかしたら人選だって適当だったのかもしれない。
疑い出せばキリが無いのだ、薫は聡太のことを好きだと力説したがそれも嘘かもしれない。
人の良い聡太だから簡単に丸め込めると思い選定されたのかもしれない。
普段の人柄だって嘘かもしれない、親への態度だって嘘かもしれない。
自分が好きになった女性はまるっきり虚像だったのかもしれない。
愛してしまった夜は取り返しが付かず悔やまれた。
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