ライアー・ブライド…真面目な僕らの偽装結婚

茜琉ぴーたん

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「うん…ありがとう」

「これ美味しいね」

「うん…でも少し苦いかな」

「そう?蜂蜜なのに…ひと口ちょうだい」

「…良いよ、はい」

間接キスになるけど止めやしない。

 薫は隣へ缶を差し出して、聡太も抵抗無くそれを受け取った。

「ありがと」

「……」


 だくだく高まる心拍数。

 けれど今夜が二人の更なる発展のスタートだと信じて…

「いただきます」

聡太は躊躇ためらわず口を付けた。


 上下する出っぱった喉仏に色気を感じる。

 薫は酔いのせいもありぽうっと、目が合うまで愛しい聡太を眺めていた。

「甘くて美味しいね」

「うん」

「こっちも呑んでみる?」

「苦いのは嫌なの」

「ふふ」


 ふわふわと良い気持ちの二人はいつしか肩が触れて、互いにじりじりと体重をそちらへと寄せる。

 大人なのだし仮にも婚約者なのだし、この先何が起こったってとがめられることもないし後悔するなんてことも無いだろう。


 アルコールに濡れた唇は次第に近付いて引き寄せ合って、薫が先に目を閉じればそれだけで聡太は合意とみなしてキスを敢行した。

「……」

「……薫ちゃん、甘いね」

「聡太くんが甘いんだよ…はム」


 酒気帯びた熱い息が交差して緩い口元から水気が滴れる。

 二人は大人だ、そして婚約者だ、聡太は

「薫ちゃん…あの、」

とお伺いを立てたら薫はこくりとうなずいて、彼の大きな手を胸の膨らみへと添えさせた。


 そこからは聡太もカアッと逆上のぼせ上がってしまい、薫を抱き上げて新しいセミダブルのベッドへと荒々しく運搬した。

「きゃ」

「ごめん、脚がもつれた…ハァ…ダメだ、酔ってるね」

「うん…」

「薫ちゃん、きちんと聞いたこと無かったんだけど、彼氏はいたことある?その…経験、ある?」

「あ……の…」

 大きな体で蛍光灯の明かりが遮られてそこだけ暗がりみたいな影がかかる。

 逆光の聡太は酒のせいなのか興奮のせいなのか顔も紅潮して汗をかき始めている。

 そしてTシャツをがばと脱ぎ出すものだから、薫は胸板や乳首やヘソ周りの毛なんかに釘付けになってどう答えたものかと考えがまとまらない。

 ちなみに結論から言えば「NO」、薫は男性と交際経験など無い処女である。

 なので先ほどの口付けはファーストキスだし男性に押し倒されたことなど無いし、男兄弟の裸は見たことがあるが大人になってからはめっきり機会が無かった。


 さて「初めてなの」と告げて良いものか、重いと敬遠されやしないだろうか。

 万が一にも笑われたらどうしよう、29歳の生娘きむすめは酔った頭で大いに悩む。

 どう言えば評価が下がらないだろうか、これまでデキる女風に見せていたのに経験が無いとは滑稽こっけいだろうか。

 回線がパンクするギリまであわあわと慌てふためく姿を見れば聡太にはそれで充分答えだった。
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